午後三時前。帰り道、駅のホームのベンチで終点、本厚木駅行きの電車を待つ。傍らにオレンジの手提げ袋。今日は忙しく疲れた。コーヒーがふと飲みたくなり、ベンチを離れて自販機に。コーヒーを飲み干してほどなく電車がやってくる。
バイト帰りの電車の中でのゲームは毎日の楽しみ。今どこの駅を通過したか、のみ聴覚を働かせ、あとの四感は全てゲームに集中。最寄駅に着いた。が僕の夢中は終わらない。画面を見たまま電車を降り、階段を降りる。降りたところでゲームも終わり、さぁ!帰るか!緊張も解けたせいか、肩も軽い!軽いはずさ!だって手ぶらだも・・・はっ!ない!オレンジの手提げ袋!もしかしてまた電車の中に・・。いや!思い出せ!ここに来るまでを。ベンチ、コーヒーを飲む為にベンチを離れる!そしてほどなく電車!乗り込む・・。まさか!
急いで電車に乗り込んだ駅に連絡、が、そんものは届いてないらしい。そんなバカな!実際その駅に戻ってみるがない!あと考えられるのはただひとつ!
自宅最寄駅まで帰ってきた僕は駅員に事の次第を説明。駅員はパソコンで調べてくると言い残して、その場を去り、程なく帰ってきた。
「(駅員)そのオレンジバックの中にお客樣の名前を書いた物とかありませんか?例えば・・給料明細とか?」
「(僕)給料・・あ!はい。あります。ちょうど今日もらったんです。あと、カップ麺も入ってました。」
「ひょっとしてそれは、ラ王じゃないですか!?」
「はい!そうです!」
「そして本か何か入ってましよね?」
「入ってました。」
「その本の名前をどうぞ。」
「乙武洋匡の五体不満足。」
「ほぼ確定ですね。ご案内致します。お客さまの忘れ物は・・。」
奇妙な合い言葉の様な会話の後、僕は60年前、連合軍総司令官マッカーサーの降り立った厚木の地に、午後6時に降り立つ。


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