「人間の体の鍛練は水の沸騰と同じだ」少年時代に通ってた空手道場の先生が、僕ら道場生に教えてくれた。冷たい水を沸騰させるには最初は強火にかけなくてはならないが、一度沸騰してしまえば、もう強火でかけなくとも、火力を弱めた弱火でもある程度の沸点は維持できる。人間の体も然り。何もしてない体を鍛えるには、最初は頑張ったトレーニングが必要だ。しかし、一旦、体が出来てしまえばあとは、力を抜いた楽なトレーニングでもある程度の筋力や、スタイルを維持出来る。だから今のうちに頑張って体を鍛えなさいと。僕は少年時代から今だにこの考えを信じてやまない。僕は辛い事が大嫌いな人間なので、辛いのにむちうって強火なトレーニングは決してしない。その代わり、自分にしばらく続けられるであろう無理のない弱火のトレーニングを気がつくとするようにしている。それがもしかしたら、ここ10年くらい体のスタイルのかわらぬ要因なのかもしれないのだ。公演が終わってから年末にかけて2,3週間火を消してしまった。いくら沸騰させても火を消せば、しだいにぬるくなり、やがてまた元の水に戻る。取り返しのつかぬぬるさになる前に正月1日から、また弱火をかけ始める。

1