明日は月曜日。明日から新生活をスタートさせる新入生や新社会人も多いのかなぁ。そう!僕にもありました。そんな時期。丁度15年前の今頃、成城大学に晴れて合格し、上京する僕にも。
“全日空高知発、東京行き562便は…”
19歳の僕は父、健吉さんと高知空港のロビーのソファーに座っていた。かたわらにボストンバック。この日はどうしても息子を見送りたかったのか、健吉さんは仕事先に断りをいれて僕を見送りにきてる。
「(僕)そろそろ行くわ・・。」
「(健吉さん)おぅ・・行くか・・。」
恥ずかしいのか、淋しいのか、特に話す事もない。ソファーから立ち上がるとボストンバッグを肩に、手荷物検査のゲートの列にならぶ僕。
「(健吉さん)ほんじゃあ、お父さんもう仕事に行くからな…体に気をつけて…頑張れよ…」
お互い初めての子離れ。親離れ。さすがに少し感傷的になる。後ろ髪を引かれる思い。列は少しずつ前に進む。時期的なせいか、空港内は旅立つ人、見送る人で溢れかえってる。人込みにまぎれ、おそらく健吉さんの視界から僕が消えかかろうとした瞬間…
「太郎っ!!」
そう言って健吉さんは僕の所に駆け寄って来る。健吉さんはゆっくり右手を差し出しながら…
「(健吉さん)…元気でな…」
「(僕)お父さんも…」
握手。そう言えば健吉さんと喧嘩した時、いつも仲直りに健吉さんは僕に握手を求めてきたっけ。父の手を握り返す息子の耳元に、その父はそっと語りかける。
「(健吉さん)お前の持ってるそのバッグの中にな…その…コンドームを入れておいた!いや、こういう事はな、どんなはずみで、いつ起こるとも分からんのよ。勢いという事もある。お前も、もう大人だし、俺が見るにお前は女の情けに弱い。迫られたらまず断りきれんだろう。俺はこの歳で(当時45,6だったと推定する)お爺ちゃんにはまだなりなくないぞ!!ははは!ん!?どうした?太郎。その冷ややかな目は…」
「行ってきます!」
もはや、この高知になんの未練も迷いもない!さっきまでの後ろ髪ひかれる思いもきれいさっぱりなくなった。センチメンタルはどこ吹く風。
僕と他の乗客を乗せた飛行機はこの後、皆さんと出会う事になる運命の街、東京に向かう。
「俺っていい父親だな…」と呟きながら東の空を見上げる健吉さん。
ただしここで、この父親は最大の誤算をしている事に気付くよしもない。心配したその息子は思いの外、全然もてないという最大の誤算を…。

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