川村の芝居を見に行く。楽しみにしていた。塾の傍ら『ブラボー』をやってる僕と違って塾以外の所で川村が客演をするのはとても珍しい事なのだ。塾の川村とブラボーの保坂、この二人は僕のまな弟子であり、僕が育てた最高傑作の二人と言ってもいい。そんな川村の滑りを期待する。彼らしいのびのびとした滑りをしてほしいものだ。開演前に彼にメールを送る
『いい滑りを期待している。』と。
客席が暗くなり、幕が上がる。客ウケもよく芝居は進んでいく。幕が上がって一時間くらいたった頃だったか、川村がでてきた。上下黒の服装にサングラス。キレるとヤバイやくざの役。
拍手の中、芝居は終わった。僕は固く固く汗をにぎりしめた。怒りにおのれの体が震え、おのれの内臓が煮え繰り返ってるのが分かる…。
川村よ。何故滑らなんだ。何故一滑りもせなんだ。クールでスマートな女の子ウケする芝居をせよと俺がいつ教えた?え!?いつ?自分のダジャレは棚に上げて回りのダジャレを批難する、あの滑りはどこへ行ってしもうたんかのう。
『鎌倉さん…最悪ですよ…駅のホームはダジャレでいっぱいですよ…』
そう言って
《ON泉・OFF呂》と書かれた温泉広告や
《ネットで得だ値っと!》と書かれた割引広告などを見つけては旅先の駅で怒りに震えてた君はどこへ行ったんかのぅ。そのくせ姫路の街で居酒屋『笑笑(わらわら)』を見つけるや否や、片手をさっと上げ
「わらわら、選手一同は…」
と言ってた君はどこ行ってしもうたんかのう。
「一度でいいから見てみたい……歌丸です。」
と肝心の『女房がへそくり隠すとこ』というオチを言わない歌丸さんのモノマネをやってた君は一体どこへ行ったんかのう。
旅先の山形県の天童(てんどう)駅構内で
《ラブミー天童》
なる広告に腹を立てたものの、回りのみんなに
「いや、その洒落はむしろ上手いじゃん!」
となだめられてた君はどこ行ってしもうたんかのう。
いっぱい滑ったじゃないか。いっぱいいっぱい周りをひかせてたじゃないか。なのになんだ!あのクールな芝居は!186cmの長身を生かしたようなあのスタイルは!
僕は終演後、彼に厳しい愛を込めたメールを送信する。
【滑れるようになったら帰ってこい。ちゃんとド滑れるようになるまで帰ってくるんじゃないっ!】
許せ。川村。これは決してひがみではない。愛だろ。愛。


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