午後3時過ぎ。ダラダラしてた体を起こし、自転車で出かける。程なくして忘れ物に気付き再び自宅アパートに戻る。アパート母屋の外壁に自転車をもたれかけさせ、僕は忘れ物を取りに自室へ。
数分後、忘れ物を手に外に向かう。外壁の向こうに自転車のハンドルが見えてる。倒れてるよ。ちゃんと壁に車体を預けたはずなのに。安定性悪いんだから!もう…。
あれ…あれ…おい!ない!ないぞ!自転車のカゴに入れといたバッグがない!
しまった…やられたのだ!倒れたのは自転車の安定性の問題ではない。ほんの数分の間に僕のバッグはひったくられたのだ!
急いで辺りを見回す。前を一人の女子中学生が歩いてるだけ。犯人はまだ遠くには行っていない事は確かだが、路地や角が多い住宅地は犯人をかくまうかのように人影を消すには易しい立地である。さっぱり分からぬ。仕方なく女子中学生の前に回り込む。
「すいませんが、今さっきこの自転車のカゴに入ってたカバンがなくなったんですが、怪しい人を見ませんでしたか?」
そう聞いてる自分が1番怪しい身なりをしている事は重々承知。
「いや…知らないです…」「有難う。」
まいった…。幸い、財布、携帯電話、鍵の三大重要アイテムは持参していたので難を免れた。とはいえ…。
「すいません。盗難にあったんですけど。」
3時半。近くの交番に駆け込む。事情聴収ってやつ。盗まれた時間、その時の現場の状態、カバンの形状や中身諸々が詳しく聞かれる。車上荒らしになるらしい。
「じぇ、中身やぁ何が入っちぇぁんすか?」
このおわまりさん、喋りが速い上に口ごもるから聞き取りにくい。
「えーと…ジャージ上下、それとバスタオル…縄跳びも入ってました。あとクリアファイルと…あ!あとTSUTAYAに返しに行こうとしてたCDが。」
警察は何かと時間がかかる。落とし物を届けただけでもいろいろ書面に記載させられる。ましてや盗難である。
「CDはじょんなやしゅですか?」
「どんな…というと?曲名とか、歌ってる人とか、ですか?」
「ええ。そうぇしゅ。」
「福山雅治さんのやつで、『明日の☆SHOW』って歌が入ってるCDなんですが。」
「あぁー。福山ましゃあるさんのね…。明日の…えー…明日のショー…、これ、あしたのジョーでは…」
「違います。」
「明日のショーでいいにょにぇ。」
「はい。」
「あのーすいません…」
僕ら二人の会話に知らないおじさんが入って来た。
「これ…散歩してたらそこの米屋の辺りに落ちてたんですけど…」
「あ!それ!『ドライビング・ミス・デイジー』!僕の台本です!僕のカバンに入ってたやつだ!」

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