昨年の忘年会シーズンの事である。何をするともなく深夜テレビを見ている。
【これから来たる忘年会シーズン、新入社員の君に送る!忘年会はこうやってヒーローになれ!】
どうやら課長や部長クラスの上司やマドンナOLのハートを掴むハウツーを若手の新入社員達に伝授する企画番組らしい。
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【……なんとか一次会を乗り切った君!しかし油断するな!そう!これから始まる二次会のカラオケ!ここでも試練が待ち構えている!ホラホラ!お目当てのあの娘が、隣に座った課長にセクハラまがいのデュエットを迫られてるぞ!さあ!どうする!?】
見ると頭の薄くなったいかにもスケベそうなおっさん上司に若いマドンナOLが手を握られている。
【下手な正義感で『課長!止めてあげてください』なんて言おうものなら、課長の機嫌を損ねてしまう…しかし心配するな!こんな時はすぐさまこの曲を入れてしまおう!課長クラスならこの曲に必ず飛びつくハズ!】
《♪OH!サンクス!サンクス!サンクス…♪》
【モニカだ!】
どんぴしゃや…俺、マジ、どんぴしゃなんですけど…。
【課長クラスならたちまちこの曲に飛びつき、そんな君の気遣いに彼女もきっと気付くハズ!ちなみに課長クラスが必ず飛びつく曲をこの際だ!もう一つ二つ挙げておこう!】
《♪あ〜いがぁ、すぅべぇてさぁ〜♪》
【フォルテシモ!】
ぐさっ!!
《♪走る〜走る〜俺達〜♪》
【Runner!】
ぐさっ!グサッ!
テレビではフォルテシモを熱唱しているオッサン課長。
そうか。そうね。結局恋愛も出来ぬまま僕、もうオッサンになっちゃったのね…。

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