本番まで一ヶ月をきり、僕は独りいつものように稽古場でお泊りである。そしていつものようにフライングをしてるわけである。フライング。つまり、まだやるかやらないか決定していないのに勝手に必要と思われる小道具を作り始める。演出がもし一言、
「あ!その小道具いらないぞ。」
と言われれば、ハイ!それまで!時間と労力は無駄になる。とても合理的とは言えない。僕はとても非合理的人間である。
役者を目指していると、中にはとても頭が良く、物事を要領良く合理的に考える人に出会う。要領良く合理的な事は人としてとても大切だし、そうありたいとも思うのだが、でも何故役者を?とも思うのである。要領よく合理的に考えられるんだったら、会社に入って出世を目指せばいいのに!いや、いっその事、会社でも起こせばいいのに!なぜ?こんな役者などという非合理的で困難な道をあなたは選ぶの?なんて。
『親方ぁ!俺ぁ、どうも無駄な事が好きな性分らしい!いいもんだぜ!人が無駄だと思ってる事の為にぱぁっと、命賭けるのは!』
無名塾公演『いのちぼうにふろう物語』の台詞。仲代さんは『役者を目指すというのもある種、そんなもんだ。』と、この台詞をとても好きだった。
今作っているものはもしかしたら無駄になるかもしれない。でも僕は敢えてその『無駄になるかもしれないもの』に二度と戻らない時間を費やすのである。


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