「…で…ですね…、アイツ…僕の『茶柱婦人』を観に来てくれた訳ですよ。」
『あっぱれスープレックススペシャル』の何週間か前、僕はブラボー事務所で役者の山本さんと話をしている。
『アイツ』というのは学生時代、まだブラボーカンパニーが『あっぱれお気楽事務所』と名乗ってた頃、舞台照明を担当してくれてた、『あっぱれ…』のスタッフメンバーである。仮に『アイツ』とここでは呼ばせてもらおう!
「(山本さん)おう!懐かしいな!アイツ、元気にしてんの?」
「(僕)それがですね…山さん…アイツ…」
「(山本さん)おう、アイツがどうしたのよ?」
「(僕)いや…そのですね…」
「(山本さん)だから何よ!?」
「(僕)年をとってないんです…アイツ…」
「(山本さん)何ぃっ!?」
「(僕)『不老不死』って言うか…いや、百歩譲って『不老長寿』って言うんですか…とにかく年をとってないんです!アイツ!」
アイツと僕らが一緒に作品を創ってたのは成城大学演劇部時代。もうそろそろ四十も見えてき始めたブラボーメンバーがまだ二十歳をちょこっと越えたくらいの事。二十年というと大袈裟だが、いやいやそれでも15年以上は前の事。
「(山本さん)マジで…?」
「(僕)久しぶりにこの前の僕の公演を観に来てくれまして、客出しの時、恵比寿エコー劇場のロビーで『鎌倉くぅん…元気ぃ…?』って相変わらずのあの低いテンションで。手も振ってはいましたが、相変わらず腰ぐらいの低い位置で…」
「(山本さん)まさか…そんな…」
「(僕)今回のスープレックススペシャルも観に来るそうですよ。」
〜『天晴スープレックススペシャル』本番中某日、終演後〜
「(僕)有難うございました!有難うございました!」
「(客さん@)面白かったです!」
「(僕)有難うございました!」
「(客さんA)すっごく楽しめました!」
「(僕)有難うございます!そう言って頂けるとホッとします!」
「客さんB)また絶対観にきますね!」
「(僕)お待ちしております!有難うございました!」
「(アイツさん)鎌倉くぅん。久しぶりぃ。元気ぃ?」
「(僕)おーっっ!有難うね。わざわざ遠くから!ほんとに、有難うございます!」
「(アイツさん)なかなか面白かったよぉ!」
「(僕)おー!サンキューな!」
〜終演後、ブラボー事務所にて〜
「(僕)山さん、会いました!?アイツに。」
「(山本さん)おー!会った!会った!確かに全然変わってなかったなぁ!アイツ!」
「(僕)でしょ!?不老不死っていうか不老長寿っていうかとにかく『不老』だったでしょ!」
「(山本さん)確かに。」遥か太古の中国で天下を統一し、欲しいもの全てを手にいれた秦の始皇帝ですら手に入れられなかったという『不老不死』。彼女はどうやってその『不老』を手に入れたのか。苦労がないのか。人生を謳歌しているのか。それとも自分の考えに正直な生き方をしているのか。
「(山本さん)まさか…」
「(僕)まさか…何です?」
「(山本さん)まさか…本当に実在したとは…」
「(僕)ほんと…まさかですよ。始皇帝すら手に入れられなかったものをブラボーの元メンバーが手に入れるなんて…ほんと…まさかです…」

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