定期が今日で切れた。僕はアナログ人間らしいがこのご時世に定期を使っているというのもかなりなアナログらしい。
一般には『パスモ』というやつを使ってるらしいね。『パスモ』は定期と比べるとどんな利点があるのかしら。そろそろそちらに移行しようかしら。
さてあいにくの雨の中、昨日今日と最寄駅前の神社にて年に一度のお祭り!
簡単な造りのステージにはこのお祭りを締めくくるライブが催されている。
♪ウイ、アワーザ、ワールド。ウイ、アワーザ、チルドレン〜♪
お祭りは大好きである。幼い頃から大好きである。僕の記憶は遠く30年以上昔にさかのぼる…。
高知の家から自転車で10分ちょっとの場所に『輪抜け様』と呼ばれる神社があり、毎年夏祭がある。文字通り大きな輪があり、そこをくぐってお参りする。敷地に入ると子供心を捕らえて離さない色とりどりの彩り!
金魚!影絵の走馬灯!キャラクターお面!綿菓子!超合金のおもちゃ…。
僕が沢山のおもちゃに惹かれる数だけ母は幼い僕を説き伏せる理由を考えてる。僕がおそらく四つか五つくらいの頃だ。母はまだ二十代後半になったばかりだったろう。
「お母さん!あれ、買うて!」
「はいはい。まずお参りしてからね。」
「え〜っ。今、買いたい…。」
「帰りにね。帰りに買おうね。」
おそらく子供だからそのうち忘れるであろうと、とりあえずその場をスルーしたのだろう。ところがどっこい、こちとら幼いとは言え、欲しいものくらい覚えている。参拝後の参道、僕は先程ねだった超合金のおもちゃをねだる。
「ねぇ!帰りに買うてくれる言うたやんか!」
「でも超合金はどうやろう?太郎。」
「これがええ!これが欲しいが!」
「そうかえ…?あ!太郎!これなんかどう?これ!ええんやない?」
見ると小さなプラスチックの象の形をした小さなじょうろ。おそらく数百円程度の物であろう。
「そんなの嫌や!超合金がええ!」
「でも見て!太郎!ほら、これやったらベランダのお花にお水あげるのも楽しいで!」
「いや、でも僕は…。」
「ほら!可愛い象さんやと思わん!?超合金よりこっちの方がよくない!?」
「う〜……ん、でも……」
「お母さんは、こっちの象さんの方がええなぁ。これ、すっごい可愛いやん!?」
翌日僕はベランダの花に水をやっている。右手には赤い小さな象のじょうろ。
(……………いや、でもやっぱり僕が欲しかったのはこれじゃなかった気がする…。)
気が遠くなる程、昔の、ある夏の日の事である。


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