来月控えている僕の芝居は『大洗〜』とは一変。それはそれはハードボイルドなシリアス芝居である。
あまり内容の事は書けないがクライマックスでは僕は銃を構える。一瞬でも集中力が欠けようものなら恥ずかしくなってしまうようなシリアスな演技が要求される。
銃をつきつける。銃をつきつける人間とつきつけられた人間。緊迫のシーン…ポケットに入れていた僕の携帯電話が静かに唸り始める。
(だ…誰だ…こんなシリアスなシーンに…)
《ヴィーン…ヴィーン…》嫌な予感。
【お父さん】
携帯電話の掲示板にはそう記されている。
やはり…この時間は…そうかと思ったが…
健吉さん…。
メールではない為、いつまでも長く続く着信バイブ…は、早く諦めて切ってくれ…。でないと俺は『犯人に銃を向けてる最中にお母さんから電話がかかってくる小栗旬君状態』になってしまう…リアル東京DOGS…
稽古後、電話をかける。
「(僕)《この時間は電話かけてきちゃマズイ、という圧力をこめて》もしもし…」
「(健吉さん)おー!太郎か?お父さんや!」
「(僕)うん…。」
「(健吉さん)元気かや?」
「(僕)まぁ…元気ではある…」
「(健吉さん)まぁ!いつもの如く、用はないんや。」
「(僕)あ…ないのね。」
「(健吉さん)まあ、声でも聞きとおてな!」
「(僕)今、この時間、芝居の稽古中でね…」
「(健吉さん)おー!そうやったか!すまん!すまん!春ぐらいまで芝居が入っちゅうんやったな!で、来年は秋頃にまた無名塾の公演やったっけ?」
「(僕)うん、まあ、キャスティングされればね…。」
「(健吉さん)え…と…なんていう芝居やったっけ?えーと………『裸の王様』…」
「(僕)うん。『炎の人』ね。」
「(健吉さん)あれ?『裸の王様』やなかったっけな?」
「(僕)いや『炎の人』」
「(健吉さん)そうか…てっきり『裸の王…」
「(僕)うん。『炎の人』やからね。」
「(健吉さん)あの!あれやな!確か…あの有名な絵かきの…」
「(僕)あぁ。そうそう。」
「(健吉さん)えーと…誰いうたっけ?えっと…『ヤッホー』…」
「(僕)ゴッホね…。《もはやネタだな、この人…》」
鎌倉健吉。されど陛下から叙勲を受けた鎌倉家が誇る偉人。
みなさん!よいクリスマスを!
メリークリスマス!!

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