そろそろ半分くらい公演は終了。随分とリズムには慣れて来たのは確か。しかしやはり緊張する。やはり楽しむ余裕は実感出来ない。
他のメンバーは時折、
「いやぁ、本番中思わず楽しくなっちゃって遊び過ぎちゃった!」
などと終演後、言っている。
いいなぁ…俺も楽しみたいなぁ…そんなレベルに到達したい…と僕はいつもメンバーをうらやむ。僕はいつもギリギリである。毎日毎日ギリギリである。今回客演してくれてる保坂君も以前、
「本番前のカマさんて不機嫌だし、話しかけても返してくれないから怖いっすよー。」
なんて言っていたし、座長の息子さんが2〜3歳の頃であったか、本番前、僕が彼をこっちへおいで、と呼ぶと
「カマさん、怖いからヤダ!」
と言って普段懐いているはずなのに寄って来なかったくらいである。
本番前、楽屋で待機しながら、ふとオリンピックのフィギュアスケートの選手達を思い出す。ほんのわずかの力加減でつるりと滑ってしまう氷の上、世界中が見守る中、たった一人で演技をする彼ら彼女ら。僕よりずっと若いあなた達!出番前、一体何を思うのですか?あなた方がジャンプで失敗して尻餅を着くのは、僕らにとっては長台詞の途中で台詞がとんじゃった時の真っ白な感覚に似ているのだろうか。その時のパニックたるや…。
僕はもはやオリンピックを見ていても胸が苦しくなりそうになる!
無名塾の関係者が終演後、僕に話しかける。
「なんかブラボーの舞台に立ってる太郎ちゃん、塾で見たことないくらい楽しそうに芝居してたよ。」
ますますわかんないな!俺にとっての芝居とは!
終演後、客さんもいなくなり、舞台では保坂君がごろり横になりひたすら重力を床にあずけている。カメラを向ける。光の関係で眉毛と、点のように浮かび上がった目が不気味である。


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