『バトンタッチ』
僕は何気にこの言葉を本番前、ひそかに肝にめいじる。
前走者は後者に【責任】という名のバトンを渡す。走者は【責任】を果たし、後者に【責任】を無事渡さねばならない。
例えば去年秋に上演した『マクベス』。オープニング第一声を任せられたのは魔女を演じた、このブログでもお馴染みの川村君である。彼はこれから始まる不吉な物語を予感させる台詞を雷鳴轟くなか喋る。彼が退場した後、待っているのはいよいよ僕の階段落ちと長台詞である。そして僕はこれから登場するこの物語の主人公、マクベスの武人としての天才ぶりを喋り退場する。そしてマクベスの登場。
僕はドキドキしながら毎日舞台外で待機する。横目に川村の魔女がチラチラと視界に入ったり出たり。本番前、スタンバイの為、死刑台の階段を上るように僕は階段を上る。毎日転がっているものの、やはり怖いものは怖い。しかし川村から受けとったバトンは必ず仲代さんに渡さねばならぬ義務と責任がある。
川村の台詞が終わる。いよいよ僕がスタンバイしているセットが舞台に向かって動き出す。
(川村!バトンは確かに受けとった!後は俺に任せろ!)
後は全力で転げ落ち、そして台詞を客さんに伝える!
(仲代さん!バトンです!後はお任せしました!僕はこれにて!)
能登演劇堂の大扉がゆっくりと開き始める。
馬にまたがった仲代マクベスが登場する。

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