茶をたてる。ここは無名塾稽古場。無名塾には稽古場が二つある。一つは15年程前に造られた新稽古場。無名塾稽古場公演はこの新稽古場が舞台となる。そしてもう一つが、15年以上前に無名塾稽古場として先輩塾生達が汗を流していた『旧稽古場』である。
役所広司さんや益岡徹さん、若村麻由美さん達を輩出したのはこの小さな旧稽古場であり、元祖無名塾とはこの稽古場の事である。今は小道具や畳などのちょっとしたセットなどを保管している倉庫となっている。
新稽古場での稽古が終わった夜6時以降にそんな旧稽古場のわずかなスペースに畳を一畳しき、一人、茶をたてるのが最近の僕のささやかな楽しみとなっている。
お茶というのは妙なものである。自然が実によく合う。今、この季節は一年で最も日が長い。とは言えさすがに夜6時、7時ともなると茶をたてるにはちと薄暗い。
が、かと言って電気を煌々(こうこう)と照らした中での茶は何か興ざめなのである。
電気を消す。薄暗い。雨が降ってきた。雨は嫌いである。
しかし妙なものだ。薄暗い夏の夜にさらさらと降る雨すら、茶をたててると趣を感じるのである。


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