いつものように稽古場で小道具を造る。
「くっだらねぇなぁ…」
そうつぶやきながら笑ってしまう。一人小道具を造ってる時の僕のお馴染みの口癖である。
10日をきった天晴チョップ。それで使う『あごひげ』を今、製作中。あご型に造ったダンボールに一本一本ヒゲを植える。周りからするとさぞかしくだらぬ作業に見えている事だろう。しかし僕はこのくだらなさを案外大切にしている。
芝居造りは実に非合理的で世間的一般的には無駄な事が多い。おそらく会社の経営者や有能な営業マンの方々には理解出来ないような非合理的な事に全力を注ぐ。
「そんな事にちから注いでどうすんの!?」
と言われるような事に全力を注ぐ。
「そんな所までお客さんは見ないし、分からないよ。」
と言われるような所まで凝って造ってみたりする。
『凝る』というのはおそらく普段、目の届かない所にまでちからを注いだ時、初めて使う事が許される表現であろう。
目に見える所を頑張って造るのは当たり前。目に届かぬ所まで頑張って造って初めて『凝った』という訳である。
だから僕は好きなキャラクターフィギュアを手に取って見た時、靴底の溝まできちんと彫られているのを見ると
(う〜ん…凝ってんなぁ…)
と感心するのだ。普段ケースに飾られて立っている時、靴底は決して見えない。しかしそれでも見えない靴底の溝まで再現してある。見えない部分でさえそれである。見える部分の出来が悪い訳がない。
もしかしたら、いや、おそらく気付いてもらえないかもしれない、でも気付いてもらえないかもしれぬそんなたくさんの小さな所までこだわって創った結果が全体としてレベルの高い仕上がりに繋がるのだと僕は信じる。
高校時代、僕のクラスメートが僕に言った事がある。
「この前、洗剤のCM見てたら、
『5000分の1ミリの汚れまでホラ!この通り!』
って顕微鏡みたいな映像が流れてたけど、5000分の1ミリの汚れなんて見えない!見えない!」
そりゃそうだ!と僕も彼と一緒に笑った記憶がある。でも20年経った今は違う。目にも見えないわずかの汚れまで落として初めて洗濯物がきれいになるのである。
20年かけて学んだ事はこれくらいかな。
あ!でも!でも……………天晴チョップはユルユルに行きますからね。今日の今までの僕の文章は忘れてくださいっ!!

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