僕らは役者として本番にのぞむ。しかし本番中、仕事は演技だけではない。その場面場面で手の空いている役者は場面が変わる際のセットチェンジも手伝う。
当然の事ながら照明の当たる明るくまばゆい舞台とは違い、役者やスタッフのスタンバイする舞台脇は暗い。暗い上に役者やスタッフがいる。セットや小道具がある。床には照明やら音響やらのコードも這っている。その為、スタッフは勿論、役者の中にも何人かは『ペンライト』と呼ばれる小型の懐中電灯を持っており、足元を照らしながら危険を回避していく。
今回、僕は進藤君とコンビを組んで舞台にあるベッドを片付けなければならぬ。場面から場面へ変わる照明の暗いわずかの間にすっと舞台に出てベッドを二人で持ち上げ更に暗い舞台脇まで一気に運ぶ。
〜舞台脇にて〜
「(進藤君)いやぁ!鎌倉さん!速い!速かったなぁ!今日のあなた!ベッドを運ぶ速さじゃないよ!俺、思わず笑っちゃいそうになっちゃったよ!」
「(僕)もう一気に駆け抜けましたよ!青春よりも速く駆け抜けましからねぇ!」
「(進藤君)いやだから、あなたのその昭和中期の例え、もはや周りの人間誰一人として聞いてないよ。」その瞬間、川村さんが手に持っているペンライトで僕の目をつぶす!
「(僕)うわ!眩しいっ!眩しいよ!目が!目が!」
「(川村さん)ククククク…」
「(僕)どう?俺の今のリアクション!?ブレアビッチプロジェクトみたいだった!?ホラー映画のブレアビッチみたいだったっしょ!?」
《ピカッ!》
「(僕)うわ!だから眩しいって!ブレアビッチみたいっしょ!?」
《ピカッ!》
「(僕)ブレアっぽくない!?ブレアっぽくない!?」
「(川村さん)いや、鎌倉さん、その『ブレアビッチ』のボケ気に入ってるみたいですけど、僕、あんまり面白いと思わないんでいくらボケてものっかりませんからね。」
(お…お前……)


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