「『びんぼっちゃま君』みたいだな。」
どこだったか、旅公演中、本番直前暗い舞台脇で待機していた僕に進藤君がそう言う。
「(進藤君)君、『びんぼっちゃま君』みたいな衣装だね?」
「(僕)何ぃ?『ぶんぶくちゃがま』だとぉ?」
「(進藤君)いやいや、『ぶんぶくちゃがま』ではなくて『びんぼっちゃま』。知らない?アニメの『お坊ちゃま君』に出て来る『びんぼっちゃま君』」
「(僕)俺もこのかた38年生きてるが『ぶんぶくちゃがま』なんて不名誉な、あだ名で呼ばれたのは初めてだねっ!!」
「(進藤君)まだ俺の日本語は理解出来てないようだな。」
「(僕)『ぶんぶくちゃがま』だとぉ!?」
「(進藤君)いや、言ってない。言ってない。」
「(僕)いや、しかし進藤さん、ちなみに『ぶんぶくちゃがま』ってどんな話だっけ?」
「(進藤君)まぁ、どんなって…俺の記憶だと茶釜に化け損ねたタヌキが綱渡りしてるイメージがあるな。」
「(僕)ああ!俺も!綱渡りしてるイメージがある!やっぱりそうだよね!?ああ!お腹の鍋みたいなものって『茶釜』かぁ!『ぶんぶく茶釜』だもんなぁ。」
「(進藤君)なんか両手に扇子みたいなものを持って綱渡りしてたよね!?」
「(僕)なんで綱渡りしてんの?」
「(進藤君)え?」
「(僕)いやだから…なんでタヌキが綱渡りしてんの?」
「(進藤君)なんでって…?」
「(僕)どういういきさつがあってタヌキが綱渡りさせられてんのだっけ?ていうか、綱渡りさせられてんの?それとも自分発信で自分から綱渡りしたくてしてんだっけ?」
「(進藤君)俺の記憶だと綱渡りしているタヌキの顔はとびきりの笑顔だった…。」
「(僕)だよな!?俺もそういう印象がある。て事は自分発信か…。やりたーてやってる訳やね!?」
「(進藤君)うん…」
「(僕)一体、タヌキに何があったんだろう?一介のタヌキが綱渡りなる曲芸に至るまでに一体何があったんだ?」
「(進藤君)しかも自分から『やりたいです!』て言った可能性が大だからね…」
「(僕)そもそも、なんで茶釜に化けた!?」
「(進藤君)それもあんまり覚えてないんだよなぁ…。」
「(僕)茶釜に化けるからには間違って火にかけられて『あちゃちゃちゃ!』みたいな出川さんみたいなおいしいリアクションシーンも勿論ある訳だよね!?」
「(スタッフさんの一人)確か、お寺のお坊さんにそそのかされたか、なんか…」
「(僕・進藤君)何ぃ!?」
「(進藤君)『お坊さん』っ!?」
「(僕)『そそのかされた』ぁ!?」
「(スタッフさんの一人)いや…僕もあんま覚えてないっすけど…そろそろ開演しますよ。準備してくださぁい。」
「(進藤君)また新しい謎が…」
「(僕)お坊さん…そして僧侶による陰謀…」
「(舞台監督)はい、それでは開演しまーす。開演でーす。」
「(僕・進藤君)う〜ん…」

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