僕の感覚だと三日目まではゆっくり時は流れる。三日目以降から急速に時が流れる。今日はその三日目である。
基本的に高知にいる時は健吉さんは僕をドライブに誘う。僕もそのドライブにはいつも乗っかる。久しぶりに親子二人で時を共に過ごす時間を僕は大切に考える。
「(健吉さん)中土佐〔なかとさ〕の方まで行ってみんかや?」
「(僕)ああ。ええねぇ。行ってみようか。」
中土佐町は高知市内からは約60キロ近く離れた海辺の小さな町である。高知は帰ってくる度、高速道路が延びている。昔は1時間半くらいかかっていた距離も今は約40分ちょっとである。車は快適に新しい道を滑っていく。
「(健吉さん)ほら!太郎!あそこ見てみい!あそこにも高速道路を建設中よ。あれが完成したらさらに西に行き易うなるろうねぇ。」
山あいに真っ白い橋のような高速道路が見える。
「(僕)そういや、僕が子供の頃、造りかけたものの予算がなくなって建設中止になった道路があったよね?ほら!赤岡の海岸通に。」
「(健吉さん)おお!あったな!」
「(僕)海岸通沿いに巨大な道路の足だけ遺跡みたいに残っててさあ…」
「(健吉さん)バルブの景気の影響で造り始めたものの、ダメよ!バルブがはじけてしもうたき!予算なくなって建設中止やったけどあれも最近になってやっと、完成したぞ。赤字覚悟で無理矢理完成させたらしいわ。」
健吉さん『バルブ』と『バブル』の英語の意味の違いに気付かない。ある意味、バブルがはじけるよりバルブがはじける方が危ないぜ…。
「(健吉さん)しかし…今回の地震は大変やったなぁ。東京は大丈夫やったか?」
「(僕)うん、まあ多少の混乱はあったけど、たいした被害はなかったかな。」
「(健吉さん)四国はまぁ、地震はあまり関係のない土地やけど、それでも専門家の言うにはこの30年の間に四国にも大地震が来る確率は70%あるんやってな。」
「(僕)え!?高知にも?」
「(健吉さん)おう。なんかどっかの先生がそう言いよったぞ。この30年で大地震が来る確率は62%やって…」
《え…何故8%ダウンした…?》
「(健吉さん)この30年で62%言うたら、ほぼ一生に一度は大地震に会うって事やなぁ…」
《何故さっきより8%分だけ安心しちゃったんだろ…》
道は海岸沿いを外れて山あいに入っていく。山道の脇には道路情報の看板。
【道路情報
《崩落》】
え?何?道路情報《崩落》って何よ?どういう情報よ!?
「(健吉さん)太郎、この道の下の方、谷になっちゅう所を電車が走りよるのを、お前、知っちゅうか?お父さん、谷を電車が走りよるのを知らんでなぁ、前に一度、この道でうんこしたくなって下の方まで下りて用を足してたら、電車が通って…」


5