鎌倉太郎のプロジェクトＢ

明日は舞台初日でございます。
さぁ！どうなるかね。リハーサルではいつものように汗ぐっしょり。目に入る汗がしみる！
最近ここ何年か無名塾公演では老け役を任される。白いクリームで白髪にするのは面倒くさいのよね。なによりも帰り着いてまず最初にベッドにゴロンとなれないのが辛い！白髪の白が枕やシーツにつくからねぇ。あぁ…眠い…もう寝ます。

僕には僕の芝居がある。ブラボーカンパニーが『スマートモテリーマン講座』の稽古に明けくれている間、僕は無名塾公演『友達』の準備である。この作品は一年半くらい前にも上演した作品であり今回は再演。僕の役は前回と変わらず八十歳の祖母ちゃんである。ブラボー公演『明烏』が終わりさて『友達』に集中しようか、と思ったのもつかの間。『スマートモテリーマン講座』に出て来る小道具を造ってくれ、とメンバーに頼まれる…。人手が足りない上に本番まで日数も足りないという。僕は『スマートモテリーマン…』には出演はしないが同じメンバーが出演する作品であり、座長が脚本・演出する作品だ。手伝わぬ訳にもいくまい。
とはいえ、僕も数日後には地方公演の為、東京を発つ。僕こそ時間がない。旅立つ前にまだ揃っていない、衣装の『草履』と『ももひき』を揃えねば…。
「ちょっと、衣装の『草履』を買いに行ってきます。」
造りかけの小道具を一旦、おいて自転車で町にでる。やばいな…。頼まれた小道具も全然間に合わないや。どうすんだよ…。とにかくグズグズしてられない。早く草履を見つけねば。とはいえ靴じゃないんだし、どこに行けば？着物屋さんはどこにある？それに、あっても高いよな…。軽く6000円、7000円なんていったら、あっても買えないぜ…。中古の着物屋…浅草？遠いな。今からじゃ行って帰ってくんのにどんだけ時間がかかるんだよ。小道具、間に合わないよ…。せめて下北沢…。下北沢だってすんなり物があったとしても行って帰ってくんのに軽く２時間弱はかかるんじゃないか…どうする？どっかもっと近場はないか？時間短縮できそうな近……あったわ。
最寄駅前、小さいが着物屋がある。やったぜ！時間短縮！あとはここに草履があればいいが。
「すいませーん。」
「（店のおばあさん）はい。いらっしゃいませ。」
「あの…草履を探してるんですが…」
「（店のおばあさん）どのような？」
「お芝居で使うんですが…80歳のお祖母さんがはく草履を…」
「（店のおばあさん）お祖母さんね…。ありますよ。」
《やった！助かったぜ！大幅な時間短縮だ！》
「ちなみに…おいくらくらいに…？なるべく安いのを探してまして…」
「（店のおばあさん）うちは皆、安いですよ…」
「出来れば1000円とか2000円くらいで…」
「（店のおばあさん）これなんか300円。」
《安っ！さ…300円…》
近場でしかも安く。ラッキーだったぜ。
「（店のおばあさん）最近はお祖母さんと言ってもねぇ…お召しになるものなんか若い色ばっかりでね。昔の80歳が着るような着物はもう売れないんですよ…。」
「そうなんですか。」
「（店のおばあさん）時代がそうなのかねぇ。今の人はみんな若いわよね。でもそれって昔に比べると人生に責任を持って生きていかなくてもいい時代になったからじゃないかしらねぇ…」
「なるほどねぇ…」
「（店のおばあさん）昔の人はもっと責任を持って生きてましたからねぇ。顔付きもしっかりしてたように思うわ。」
「それはあるかもしれませんね。」
「（店のおばあさん）とにかく今は、『若く見られたい！若く見られたい！て時代ですもんねぇ。かっこうも皆、若いんですよ。」
「はぁ…」
「（店のおばあさん）ホラ！今、店の前を自転車で通ったおじさん！いくつだと思う？」
《え？》
「（店のおばあさん）あれで79なのよ。若いでしょ！？」
「えーっ！？そうなんですか！」
「（店のおばあさん）警視庁特殊犯捜査係『ジウ』なんかもそうですよ。」
《ん！？》
「（店のおばあさん）私、原作も読んでますけど黒木メイサちゃんのイメージじゃないのよねぇ…」
「………」
「（店のおばあさん）多部みかこちゃんなんて子供みたいな顔してるものねぇ…）
〜20分経過〜
「（店のおばあさん）で、そのお芝居はいつの設定？」
「40年前の日本ですね。」
「（店のおばあさん）40年前といったら老いも若きもミニスカートはいてた時代ね。」
「そうなんですか。」
「（店のおばあさん）あ！その頃のアルバムあるわよ。見る？」
「え…えぇ。」
「（店のおばあさん）これが私ね…まだ二十歳過ぎくらいじゃないかしら…」
〜さらに20分経過〜
「（店のおばあさん）晩年のオードリヘプバーンがカメラの前に姿を見せた時、メディアはこぞって彼女のしわだらけになったルックスをとりあげたの…そしたら…」
〜さらにさらに20分〜
「（店のおばあさん）3、4年前かな？市民劇団でミュージカルに参加した事があってね…もちろん！スタッフでよ！私、キャストなんて絶対無理なんだから！無理よ！無理無理！」
〜さらにさらにさらに20分〜
「（店のおばあさん）私の知り合いに『飯田』さんと『矢田部』さんているんだけど、『矢田部』さんは茨城か…栃木の方だったかな…」
《もしかしたら下北沢に行く方が早かったかな…。》
「その矢田部さんの祖先が戦国時代、武田信玄の応援に行った帰りに…」

「え？ゴールデンウイーク明けから５月いっぱい山形に滞在するんですか？」
「（ブラボーメンバー）うん。なんか冒険もののドラマを福田さんがやるらしくて俺らは出演しながら段ボールでモンスターを造ってもらいたいんだって！」
これが『勇者ヨシヒコ〜』との最初の出会いだったかもしれない。まだ東日本大震災の影響でこの国が騒然としている４月くらいだったと記憶している。ロケ地山形に長期滞在しての撮影と段ボール製作。
（これは戦争になるな…。）
福田雄一監督の描く冒険ものに段ボール細工がどれだけ多くの比重を占めるか分かっている僕の心は太平洋戦争開戦前の山本五十六大将と同じであった。
程なく監督からのメールがブラボーの段ボール細工リーダー、山本さんに届く。
《試作品としてまずドラキーを造って欲しい》
来たねぇ！早速来たよ！その後もメンバーの間でいろいろと噂が流れる。
〜なにやらスライムも造って欲しいらしいよ〜
〜なにやらゴーレムも出て来るっぽいよ〜
僕はいつも正式な発注が来るのを待たない！正式な発注が来るのを待っていては『時、既に遅い』事になるやもしれぬ。先手必勝。まだ監督からGOサインは出ていないが独自の判断でゴーレムの製作にとりかかる！
世の中が黄金の一週間に入る頃、段ボール細工リーダー、山本さんからメールが入る！
《監督からとりあえず以上の物を造って欲しいと発注が来ました。
スライム×10体
ギガンデス
ゴーレム
大きな蓮の葉っぱ
巨大なヒル
ばくだんいわ
以上》
（敵機襲来！戦闘体制といきますか！）
ヨシヒコ大戦勃発の瞬間であった。

『勇者ヨシヒコと魔王の城』最終回、皆さんご覧になられましたか？
まだこれから放送という地域もあるんですよね。どうぞお楽しみにお待ち下さい！
魔王との最終決戦の撮影を思い出します。都内某所の高層ビルの屋上。てすりのない屋上はかなりスリリング！ちょうど三ヶ月くらい前でしたね。撮影したのは。
夜７時か８時ころだったかなぁ。ムラサキ役の晴夏ちゃんが
「鎌倉さん、今日の撮影、何時頃までいくと思います？」
尋ねます。
「10時か、11時くらい…かな。」
と僕。
「いや！そんな訳はないでしょう！」
と笑う勇者御一行！勇者達の想像通り、ヨシヒコが魔王と戦うシーンは夜中３時！疲労は限界に達しているであろうに、瀕死の状態になりながらも這ってでも魔王に立ち向かうヨシヒコの演技に役者『山田孝之』の根性を目の当たりにして感動すら覚えたものでした。

とは言え…やっぱ格好悪かったなあ！伝説の武器防具に身をかためた完全装備のヨシヒコは！（笑）
『ヨシヒコ〜』ザ・ムービー！実現しないかなぁ！またいつか会いたいな！あの四人に！
それでは『ヨシヒコ〜』を応援し愛して下さった皆さん！ありがとうございました！
あ！DVDボックス、是非見てみてください！魔王の最終決戦！惜し過ぎるカットシーン！かなりオススメです！

『大洗にも星はふるなり』にしろ『勇者ヨシヒコと魔王の城』にしろ僕は山田孝之君のボケ役は大好きである。
ボケにはおそらく二種類あるように僕は考える。一つは『天然』であり、もう一つは『計算』。偶然生まれるボケは天然であり、わざと生むボケは計算。『生まれるボケ』と『生むボケ』の差。極端言えば、動物のハプニング映像が可笑しいのは僕の中では『天然』に分類される。
プロは後者でなければならない、と僕は考える。たまたまボケられたのではなくわざとボケられる事。その『わざと』を『たまたま』のように見せるのに必要なのが『演技力』と考える。『必然』をいかに『偶然』に見せかけられるかどうか、そこに力量が問われる。
『ヨシヒコ』は天然である。しかし『山田孝之』は計算である。その計算を成立させるのが山田孝之君の持つ『演技力』というスーパーコンピューターではないだろうか！
そんな事を意識しながら小栗君扮するバッカスとヨシヒコの分身の術を見る。全然分身になってない事を分かっていながら、さも分身出来てるかのように演じてる山田孝之君のヨシヒコ顔にアッパレ！！
（ちなみに小栗君も好きですよ！）