〜先日の続き〜
「すいませ〜ん。ちょっとその辺りでお話いいですか?」
警察官である。二人の警察官。職務質問てやつね…。
「いいですよ。」
「【警察官1】すいませんねぇ。お仕事に向かう途中でしたか?」
「いや、今日は休日でして…」
「【警察官2】平日なのにお休みですか?あ…ちょっと身分の証明出来るものありましたら提示してもらっていいですかね?(免許証を提示する)あぁ…随分、写真とは雰囲気違いますねぇ…」
「ええ…舞台の仕事してまして、それなんで髪型もこんなに長くてヒゲも伸びてましてね…。平日が休みなのもそのせいで…」
「【警察官1】あぁ…そうでしたか…実はですね…この辺りで我々が追ってるコンビニ強盗の容疑者を見た、という情報がありましてね…」
「はぁ。」
「【警察官1】その特徴というのがですねぇ…」
「はい…」
「【警察官1】長髪に…」
「長髪に…」
「【警察官1】メガネなんですよ。」
「ドンピシャですね。まさしく今の僕ですね。」
「【警察官1】よく声とかかけられたりしますか?職務質問とかされます?」
「ええ。こういう風貌なんでよく呼び止められますね。」
「【警察官1】いや、別に疑わしい風貌とかそういう意味ではないんですけどねぇ…」
「【警察官2】(無線で)えー…確認お願いします。氏名…鎌倉…太郎…昭和48年…」
《疑ってんじゃん…》
「【警察官1】いや、すいません。こちらも情報が入った以上、少しでも特徴が似てると声をかけさせてもらってるところでして…いやでも、鎌倉さんはお話して感じる人柄だけでも、容疑者ではない、とこちらも分かるんですけど…」
「【警察官2】(無線で)えー…合わせて自転車の登録確認もお願いします…調布…」
《めちゃめちゃ疑ってんじゃねーかよ…》
「【警察官1】もうすぐ終わりますんで…いや本当、お話した人柄だけでも容疑者じゃないことはわかるんですが…」
ここでもう一人警察官が駆け寄って来て警察官は3人になる。
《もう俺を疑ってんの確実じゃん…》
「【警察官2】はい。確認とれました。鎌倉さん!大変失礼致しました。」
「ご苦労様です。では行ってもいいですか?」
「【警察官1】はい。結構です。失礼しました!あ、鎌倉さん…」
「はい?」
「【警察官1】もしかしたらこの後も呼び止められるかもしれませんが、その時はもうすでに職務質問を受けたとおっしゃってください!」
《もう、いっそ疑って!とことんまで気がすむまで僕を疑って!》
ほろ苦い初恋病院の錯覚はいつしか本当は俺がコンビニ強盗やったんちゃうか、という錯覚に姿を変えている。
錯覚が生み出したドラマチックな初夏の午前中である。

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