昼公演が終わると時間は夕方。僕は2時間の仮眠の後、走りに出る。浜松で宿泊するのは今日で終わり。明日は終演後、そのまま新幹線で帰京。おそらく今日のジョギングがこの旅公演最後のジョギングになる。公演自体はまだ後1ヶ月程続くがそのほとんどは1日公演であり、宿泊はない。おそらく街を走る時間はないであろう。
浜松城に向かう。若き日の家康がこの城を拠点にしてた事は前にも書いた。
この城に関して言い伝えを聞いた事がある。
戦場で武田信玄の罠にかかり若き日の家康は大敗北を喫する。野戦の名人と言われた家康ですら武田信玄にはまったく歯が立たない。家康は沢山の家来の犠牲により命からがら浜松城に逃げ帰る。一人ボロボロの状態で城に着いた家康に城の留守を任された家来が駆け寄ってくる!と、家来達なんだか悪臭に気づく。
「殿!その殿の下半身の茶色いのはなんでござるか?」
「(家康さん)ん…これか…これは…あれだ…みそじゃ…」
家康は武田信玄軍の攻撃のあまりの恐ろしさに失禁と脱糞をしてしまっていたのである。
家康は当時確か30歳くらいだったはず。立派な大人。しかも後に天下を取るような超一流の人物である。肝っ玉だって座ってた人物に違いない、しかしその一流の人物ですら失禁に追い込んだ武田信玄の恐ろしさを感じるのと同時に、どんなヒーローもやっぱり人間なんだな、と共感するのである。
しかし…何故このエピソードが伝わっているんだろう。時の権力者はいつもの時代も自分にとって分が悪い記録や恥ずかしい過去は消したがるもの。ましてやビビり過ぎてオシッコやウンコを漏らしてしまったエピソードなんて。
浜松城に逃げ帰った家康はすぐに絵描きを呼んで、恐怖に震えおののく自分の姿を絵に描かせている。この先、例え出世して偉くなっても油断しないように、この時の情けない自分を絵に残しているのだ。
自分にとってなくしたい恥ずかしい過去すら自分の成長に生かす。これは他の英雄には見られない家康さんならではの器である。

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