『オッケー』
緊張から解放してくれる、役者にとって有難い魔法の言葉。どの職業の人よりもこの言葉を求めるのが役者であろう。
そのシーンが終わった瞬間、
「はい!オッケーっ!」
となると役者はほっとする。良い仕事を出来た気がし、少しの満悦感と安堵感に包まれる。しかしこれが同じ『オッケー』でも…
「はぁい…オッケー…」
となると、話は変わる!このての『オッケー』を聞いた瞬間の役者の胸中によぎるのは
(え?なに…もしかして『とりあえずオッケー』なの?『時間がないから、まぁ、セリフも噛まずに言えたし、オッケーとしときますかオッケー』なの?)
というなんとも不可解な、仕事をしたような、出来なかったような、なんともスッキリしない不安を残して現場を後にする事になる。役者という職業ほど、『オッケー』のニュアンスに敏感な職業はないと言っても過言ではないだろう。
オーディションは合否が通知される。通知だから合否は目に分かる。しかし実際のプロの現場は違う。自分の仕事が合格点なのかどうかは知らされない。それは決して文字では表されず、次にその監督の作品に呼ばれるかどうかで通知される。次の作品に呼ばれなければ不合格。次もまた呼ばれて、更には前よりも役柄が大きくなってれば、それは合格である。
〜先日、都内撮影所録音スタジオ〜
僕はこの秋公開予定の映画の声録りに呼ばれる。意気込みを見せる為、声だけの録音とはいえ、セリフは覚えてのぞむ!原稿は見ない!
「(監督)はい。では、とりあえず今のはオッケーにしといて、別なニュアンスでもう1つ、録っといてみますか。」
(出た!『とりあえず』。微妙だ。うわぁ…。僕の仕事、どうか合格しますよう…。)

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