さて僕は今、早朝から昼前にかけて『天魔さん』、昼過ぎから夕方にかけて『ロミオとジュリエット』、そして夜はまた『天魔さん』と今までの売れない役者生活からはちょっと信じられないようなスケジュールを過ごしている。
その日も早朝から都内郊外で『天魔さん』の撮影、そして午後は世田谷にある稽古場にて『ロミオとジュリエット』の稽古、そして夜は東京下町浅草近くにある某スタジオにて『天魔さん』の撮影。あろう事か夜の撮影に至っては僕待ちだったりする。剛君やその他の共演者には申し訳ない。
そんな浅草のスタジオに向かう途中、僕は地下鉄に手こづる。普段地下鉄にのり慣れない僕は未だ苦手である。
(これは…このホームでいいのかな…いいんだよね?いや、いいのか!?)
等と戸惑う僕に声をかける人。
「Excuse me…」
浅草は観光地だけあって多いのよね、外国人。そして道に迷った二人の女性外国人が思わず話しかけるのが…日本人に見えない僕である。
「【あの〜ここに行きたいんだけどこのホームでいいのかな?それとも向こうのホームかな?】」
というような事を話しかけてるのであろう。その英語を聞き取る事は出来ないが路線図を見せて指をさしながら話ている事から間違いない。
僕も分からない、と言いたいのだが、日本人の僕が分からないくらいだから、向こうはもっと分からないだろう。無下にはできぬ。
「Where you wanna go?」
僕の精一杯の英語が炸裂!「This.」
外国人さんは手持ちの地図を指さすが、ローマ字で地名を書いてある為、読みづらい。
「HI…GASHI…NI…東…日本…東日本橋ね。なるほど!オッケー!オッケー!メイビー、ディスイズ、ライト!(『多分、ここであってるよ!』と言ったつもり)」
ついでに駅員さんに聞いてみる。やはりこのホームであってる、との事!
「Thank-you!」
と外人さん。僕は足早にロケスタジオに向かう。
〜帰り〜
「えっと…とりあえず…銀座線で渋谷にでるか…銀座線…銀座線…渋谷…」
券売機前の路線図を見る。あった。これだ。230円と。
「Hey!」
振り返ると二人の若い男性外国人。
「【これ使いな!大丈夫。俺はもう使わないけど、このパスポート自体はまだ今日1日使えるから。じゃあな、良い旅を。】」
彼の英語は上手く聞き取れないが、雰囲気からそのような事を言ってるらしい。そして手渡してくれたのが地下鉄1日乗車券。
行きの途中の女性外国人二人から男性外国人二人に性別は変われども、神様のイタズラか、それとも鶴の恩返しか。不思議なつながりを感じる東京下町真夏の夜。
《ピーピーピー…》
そんなアメイジングな気持ちに浸る僕に券売機は呼びかける。
【それは鶴の恩返しじゃないぜ。だってほら…。】
鶴達が僕にパスポートを渡す、ほんの数秒前にタッチの差で既に買ってしまっていた切符を券売口から吐き出しながら。


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