夢を見た。どういう力が働いてそうなったのかは分からないが、30年前亡くなった母の早知子さんが生き返ってくる夢である。
何故だか夢の中での僕や弟や、健吉さんはその現象をすんなり受け入れている。勿論、懐かしがりはするのだが、何十年も前に死んだ人というより二,三年ぶりに親しい人に会うような感覚。それと…
早知子さんが可愛い。それもそうかもしれない。若くして32歳で亡くなった早知子さんは今や41歳になった僕から見るとまるで少し年下の妹みたいに見えるのである。家族四人で車で走る。僕と健吉さん、弟の陽介は引き続きこの世に生きて、毎年帰郷した際には顔を合わせる訳だから遠慮もなにもないが、30年ぶりにこの家族の輪に入ってきた早知子さんは幾分、戸惑い緊張気味。健吉さんの運転する車が僕ら家族にとって思い出のある場所を通りすぎる度に僕ら男三人が思い出話をふるも、元々内気な早知子さん、まだ慣れないせいか、コクリコクリとうなづくだけ。まるで病気かケガをした家族をいたわるような男三人と内気な女性を乗せた車は高知の街を走り抜ける。
再会した時、すんなり受け入られたならお別れの時も比較的すんなり僕らは受け入ている。まるでまた来年、いや、二,三ヶ月後にはまた会えるような感覚で早知子さんを僕らは見送る。
「(僕)ところでこの後、どこへ行くが?」
「(早知子さん)フェリーで北海道へ行こうと思うちゅう。」
「(陽介)北海道かえ?そりゃまた遠いねぇ。」
「(早知子さん)遠いろうか?」
「(健吉さん)遠い!遠い!」
「(僕)だって高知から東京まででも、夜出発して着くのは次の日の夕方で。北海道までやったらその倍近くかかるがやないの?」
「(早知子さん)そうかえ。そんなに遠いかえ。」
「(陽介)退屈せんようにフェリーの中で何か買い込んじょった方がえいで!」
気がつくと車の外の風景はフェリー乗り場岸壁に近づいていた。
夢から覚めた。夢は大体、エンディングまでいかないものだ。いつも途中で目が覚める。
起きたばかりの頭の中にはさっきまでいた、緊張気味の内気な早知子さんの姿が残っている。つい最近『ロッキー』を見たせいか、ロッキーのヒロイン、内気なエイドリアンと妙にかぶる。
真夏の夜の夢、にはまだちと早いか。初夏の夜の夢。どういう理由であなたが出てきたのか分からないが、昨夜ひと晩、楽しかったよ。早知子さん!

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