「鎌倉さん…これ…」
朝9時半頃、無名塾の後輩女優である松浦唯が無名塾稽古場玄関からやって来る。
何…とりあえず、おはよう!と言うが早いか彼女の手のひらに目が行く。
「(松浦さん)これ…そこにいたんですけど…」
見ると彼女の両手のひらに乗っかってるのは小さな子雀である。毛並みは立派な大人の雀だが、なにぶんまだ小さい。弱ってるのか、うつぶせにするとあまり動かない。しかしその小さな背中は呼吸する度に動いている。
「(松浦さん)どうしたらいいでしょう?」
とにかく…ティッシュを何枚かとり、簡単な寝床を作り、
「(僕)とりあえずご飯をあげよう。」
「(松浦さん)ご飯って…?」
「(僕)炊いたお米を水で溶いて、お粥みたいなやつを作ればいいよ。」
確か最近、書いたよな?このブログで雀、飼いたいって。まさか本当にやって来るとは。ちょうど1年前にもカルガモのひなの事を書いたし、夏前のこの季節はひなどりが育つ季節なんやね。
「あ!私、田舎で雀飼ってた事があるんで!」
今年入ったばかりの、とある1年生の女の子がそう言って松浦さんと一緒に面倒を見てる。怪我はしてないみたい。単なる衰弱ならご飯食べて休んでれば回復するだろうけど…。子雀を見ていたいが稽古も大事。雀は彼女らに任せて一旦、稽古再開である。
2時間後、稽古が終わった僕は雀を覗いてみる。
小さめの段ボールにタオルを敷き詰め、簡単な『雀のお宿』を作ってもらった子雀はすっかり元気になっている。柔らかく炊いた五穀米を3粒食べて、でっかい糞をした。パタパタと時折羽ばたき、チュルリ!チュルリ!と鳴いている。小さな顔に小さな目。可愛いねぇ。正に『ひよっこ』だわ。
「(僕)随分、元気になったね。」
「(松浦さん)そうですね。でも私は飼えないから、なつく前にお母さんに返してあげないと。」
それもそうだ。情がわく前に帰さないとな。
「(松浦さん)よし。行こうか。チュン助。」
2時間前と比べると随分元気になった子雀はまた松浦さんの手のひらに乗っかって外へ。どうやら無名塾の目の前のお家に雀の巣があるようだ。まだ飛ぶことは出来ないチュン助をそのお家の柵に置いてやる。
「チュルリチュルリ…」
チュン助の鳴き声に呼応するかのように大人雀の『チュンチュン』という鳴き声がする。
「チュルリチュルリ」
「チュンチュン」
「チュルリチュルリ」
「チュンチュン」
チュン助は柵の間からそのお家の敷き敷地内に消えていく。姿は見えないが2羽の鳴き声だけは続いている。
お母さんに会えるといいねぇ。ほんのわずかの時間だったけど楽しかったよ!チュン助!


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