今日は僕の稽古の出番は夕方3時からなのだが、家にいるのもなんだから、早めに稽古場に向かう。無名塾に至る道は世田谷の住宅街を通る。今は人の背丈ほどの草が茂った小川はもはや川が見えない。もう着実に夏が近づいてるのを感じる。
塾の近くをふらついていると、小学校低学年であろう児童二人が帰っている。同じ通学路を一緒に歩いて来たのであろうが、ここから先は各々家路が分かれるらしい。バイバイ、と言って別れるのだが
「バイバイー!」
一人がそう叫ぶと
「バイバイー!」
もう一人も返す。するとまた相手が
「バイバイー!」
と返す。するともう一方も「バイバイー」
彼らはそれぞれの帰路につきながらもお互い姿が見えなくても『バイバイ』を返し続ける。相手の声が聞こえなくなるか、どちらか一方が根負けして返さなくなるまで。懐かしい。僕も少年時代同じ事をしながら帰ってた。
『バイぞ!(高知の子達はそう言う。バイバイだぞの意でつまりバイバイね、といったところか。)』
とお互いの根気を競い合うように叫びあったもんだ。変わらないのね。こういう事は。いつの時代もどこの土地でも。
帰りは川のそばを通る。暗い川岸の草むらの中から
「ぶおーぶおー」
とウシガエルの鳴き声。姿の見えぬ低いその鳴き声に
「太郎、陽介、ありゃあ、お化けの鳴き声ぞ。お化けが鳴きゆうがよ。」
と幼い僕ら兄弟をからかってた健吉さんを思い出す。前もいつか書いたんじゃないかなぁ。
「太郎、うーすけ(健吉さんは、ようすけのよの字を省いてそう呼んでた。)、お父さん、帰って来る途中に、すぐそこで口裂け女を見たぞ!」
そんな事を言ってた事も思い出す、僕はそんな帰路の途中である。


0