『入門者のPython』
立山 秀利(著)
2018年
講談社
☆☆☆
「講談社ブルーバックス」の「B-2072」。全くのプログラミング未経験者を対象としたPythonプログラミング入門。「Python入門」というより「プログラミング入門」という印象(最近は純粋な「プログラミング入門」が減ってしまったように思うが、初心者には絶対にそういう本が必要なのだ!)。サブタイトルは「プログラムを作りながら基本を学ぶ」。Pythonのバージョンは3.6。強いて言えば、Windowsユーザー向け。
全12章構成。Pythonの文法事項を1つずつ網羅的に紹介していくタイプの本ではなく、3つの作例を作りながら、その都度必要となる機能を学ばせていくスタイル。最初の3章はPython実行環境のインストールとウォーミングアップを行う準備編、1つ目の作例を作り終える10章までが入門編、WEBスクレイピングの初歩をかじり(11章)、数値データの統計処理(要約統計量の算出と散布図の表示)を行う(12章)最後の2章が発展編か。プログラミング未経験者でも何とか2〜3日で終えられる内容。
400ページ弱と新書としてはかなりボリュームがあるが、見開き2ページでB5判の本の1ページに相当するような感じ、文章も繰り返しが多い(「同じことを少なくとも3回は書いている」と感じるホド(笑))ため、思いの外スイスイ読み進んでいける(200ページ弱のプログラミング入門と考えれば、むしろ薄い部類ではないか)。対象読者は全くのプログラミング未経験者で(ただし、PCの操作そのものにはある程度習熟している必要がある)、中高生や年配の読者を想定しているのか、開発・実行環境のAnacondaのインストールから手取り足取り懇切丁寧、「ただ1人の脱落者も出さない!」という気迫が伝わってくる冗長さ(笑)。Pythonはもちろん他のプログラミング言語経験者には適さないだろうと思う(他の入門書の途中で挫折してしまった、という人なんかにはいいかもしれないが…)。
面白いもので、プログラミング関連書籍の世界には「入門書専門ライター」のような人が何人もいるのだが、この著者の特長は「1冊の本を通して読者に何を教え伝えるか」に関して「カリキュラム」がシッカリしている点だと思う。同じ「講談社ブルーバックス」の『
入門者のExcel VBA』(2012年)、『
入門者のJavaScript』(2014年)も凄く良かった。どちらも全くのプログラミング未経験者を対象にしており、到達目標は決して高くはないのだが、読者に直接語りかけるような口調で、言葉を尽くして確実にゴールまで導いてくれる。プログラミングの初心者が絶対に押さえなければいけないポイントは何か、それらを短時間で学習するのに最適な題材は何か、実によく考えられていると思う(目次を見ただけで、他のPython入門とはかなり異なる内容であることがわかる)。著者は個人を対象とした(Excel VBA等の)少人数のセミナーを行っているが、そういったセミナーの様子を紙上に再現したようなものなのではないか。マンツーマンで個人指導を受けているかのような雰囲気を味わえると思う。
そういう意味では、本書はPython入門講座の講師にも役立つ内容だろう。プログラミング言語の文法項目を1つずつ解説していくのは講師にとっては簡単だろうが、受講者としては「プログラミングの楽しさ・面白さ」を実感しづらい。しかし、全くの未経験者が週末の2日間+αで、「これなら自分にも何か作れそうだ!」という気になれるような教材を用意するのは難しい。それを用意している、というところがこの著者の抜きんでている点なのだ。
もっとも、Pythonの文法項目や機能、主要ライブラリ、等を網羅的に取り上げていない以上、本書では全く触れられていないトピックも多い。本書で「入門」「初体験」を済ませた後に、通常の「Python入門」に進むのが良いだろうと思う。はじめは「新書で1400円は高いな…」と思っていたのだが、200ページ程度の薄手のPythonチュートリアル系入門書と考えればお買い得かもしれない。
尚、本書では、Pythonの開発・実行環境として「Anaconda」をインストールし、(Anacondaに含まれている)統合開発環境の「Spyder」を用いている。また、AnacondaをインストールするOSとしてはWindows 8.1、Windows 10を例に挙げている。AnacondaはmacOSやLinuxでも利用可能、また、そもそもAnaconda以外の開発・実行環境(PyCharmやVisual Studio Code、あるいはPython 3そのもの)を用いても本書の内容を学習することは可能だと思うが、本書中に示されている画面画像と全く同じでないとダメ!という人は注意が必要かと思う。
本書の
サポートページから、作例で用いるファイル一式、付録PDF(実質5ページ)、等をダウンロードすることができる。また、補足説明、正誤表、等が掲載されている。
本文380ページ程度(他に、索引として4ページ程度)。

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