『世界の中心で、愛をさけぶ』
片山 恭一(著)
2001年
小学館
☆☆☆
映画を観てしばらくしてから、この原作小説を読んだ。テレビドラマ版は数話しか観ていない。
原作と
映画では舞台設定がやや異なっており、原作にはないエピソードや様々な仕掛けが
映画には付け加えられていたことがわかった。そして何よりも、原作と
映画では物語のテーマが異なることに気がついた。
映画のテーマは「コミュニケーション」にあったと思う。主人公・朔太郎とアキの2人のコミュニケーションを媒介する1台のウォークマンが
映画では象徴的なアイテムとして扱われていたし、届くことなく忘れられていたメッセージが発見されたときに
映画は始まり、突然打ち切られ放り出されたままになっていたコミュニケーションの連鎖の終端にそれを位置づけることができたときに
映画は終わる。
それに対して、原作のテーマは、朔太郎の祖父の言葉「好きな人を亡くすことは、なぜ辛いのだろうか」に集約されていると思う。そしてその答えは、同じく祖父の言葉「悲哀や哀惜も、人を好きになるという大きな感情の、ある一面的な現れに過ぎぬ」にある。聞くところによると、当初著者が考えていたタイトルは『恋するソクラテス』だったそうだ。このタイトルでは売れなかったと思うが、確かにこれは原作のテーマをよく表しているタイトルだと思う。この小説は、勉強のできる男の子が恋人の死を通して、人を好きになるということはどういうことなのか、大切な人を失うということがどういうことなのかを学ぶ、という話なのであり、『世界の中心で、愛をさけぶ』話ではないのである。
本文206ページ。

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