『博士の愛した数式』
小川 洋子(著)
2005年
新潮社
☆☆☆☆
新潮文庫の「お-45-3」。
映画を観てから、この原作小説を読んでみた。
映画よりも良かったように思う(ただしそう思うのは、
映画によって得た映像的イメージを思い浮かべながら読んだせいかもしれない)。それというのも、このお話は、数学なんて学校に置いてきたまま忘れてしまった家政婦が、年老いた数学博士との限られたやりとりの中で、数の世界に隠された神秘に触れ、これまで見えていなかったものが見えてくる・・・、というところに面白さがあるのだが、そんなことを映像で表現することは非常に難しいだろうから、
映画では老博士と家政婦さんとその10歳の息子とのほのぼのとしたやりとりを描くのが中心になってしまうからだ。そういうわけで、小説で描かれている30前の子持ちの家政婦さんからどう頑張っても深津絵里をイメージできないというところを除いて、小説の方が良かったと思う。
小説の前半に、
映画では登場しないエピソードの1つとして、件の家政婦さんが「1からnまでの連続した正の整数の和を求める」方法(公式)を捻り出す場面がある(これは、博士が10歳の子供に出した宿題)。この問題は『
プログラマの数学』(結城浩 2005年 ソフトバンクパブリッシング)にも出てきたので、実は数週間前に僕もチャレンジしていた。家政婦さんの解答と博士が別の場面で示す解答と僕の解答は当然一致するのだが、3人のアイデアはそれぞれ微妙に異なっている。
このシーンは僕にとってとても印象的で、ある問題に没頭し、閃きが訪れ、その閃きによって問題を見事解いたことに送られた博士の賞賛に対して、自然と涙がこぼれた。
この小説の文体は僕の好きなタイプの文章ではなかった。しかし、そこには、数の世界の美しさに初めて気づいた時に感じる新鮮さが充分に表現されていると思う。

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