『国家の品格』
藤原 正彦(著)
2005年
新潮社
☆☆
新潮新書 141。
冗談みたいな本だ。ベストセラーだそうだが、こんな本が売れて良いのかと正直思う。『
バカの壁』(養老孟司)をベストセラーにしてしまった人達がこの本を買っているのではないか。
本書は、著者による講演の記録に著者自身が筆を入れ書籍化したもの。もとが講演なので、ところどころに冗談を交ぜ、戯画的にデフォルメされた著者の意見がポンポンとリズム良く述べられていく。
直感的には、本書で述べられているような著者の個人的意見の中には、聞き入れるべきものもかなりあると思う。しかし、本書の中には彼の意見の根拠となるものが何一つ示されていないし、そもそも読者を論理的に説得しようという気がないようなのだ。著者は、日本人の行動指針として武士道を復権させるべきと繰り返し強調するが、そもそもその武士道精神についてすら充分に述べられているとは思わない。これでは単なる武士道賛歌に過ぎない。
最後まで読んで興味深く思ったのは、本書のタイトルが『国家の品格』であるにも関わらず、著者が「国家のあり方」については全く述べていない点だ。本書は「個々の日本人のあり方」についての著者の考えを記したものであって、「国家としての日本のあり方」については何も書かれていない。著者にとっては、日本と日本人は同義のようである。そういう意味で、社会科学的な視点が完全に抜け落ちていると感じた。
本文約180ページ。

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