『日本語は国際語になりうるか』
鈴木 孝夫 (著)
1995年
講談社
☆☆☆
講談社学術文庫の1188。サブタイトルは「対外言語戦略論」。
1980年代後半〜90年代前半にかけて著者が雑誌等に寄稿した原稿や講演会での講演内容7篇を集めたもの。内容としては、『
日本人はなぜ英語ができないか』(鈴木孝夫(著) 1999年 岩波書店)と基本的に同一と言っていいと思う。
この著者の本を何冊か読んでみたが、本のタイトルと扱われている内容とが微妙にズレていることが多いように思う。本書の内容も「日本語は国際語になりうるかどうか」を学問的に論じたものではなく、「国家としての対外言語戦略をいち早く確立すべきである」という著者の主張を繰り返し述べたもの。
著者の主張は明快で、経済大国となった日本はそれに相応しい国際発言力を備えるべきだ、というもの。「だから小学校から英語を」というのは著者の考えの正反対であって、「これからは大学で英語なんか教える必要はない」とすら言う(英文科の助教授までやった人なのに…)。むしろ、戦争という手段を永遠に放棄した日本が国際社会で生き残っていくためには、英独仏語に偏った外国語教育の枠組みを今すぐ廃することと、日本の「ものの見方」を日本語で世界に説明できるよう、世界の日本語人口を増やすことが必要であるという。
正直、同じ話の繰り返しが多い(第4章「日本漢字の特性について」だけやや毛色が異なっている)。また、かなり急ぎ足で論じられているため、著者の考えをジックリ読みたいなら『日本人はなぜ英語ができないか』を読む方をオススメする。
普通、言語学の専門家や語学教育の専門家が一国の言語政策の話にまで口出しすることは少ないのだろうと思う(せいぜい「小学校英語導入反対論」程度か)。著者の面白さは、そういった意味でまさに言語学・語学教育の専門家らしからぬところにあるのだが、それはあくまでも専門知識に基づいた提言の範囲内の話であって、「日本人の心理・精神構造」みたいな話になると私としては白けてしまう。例えば、日本政府が海外での日本語教育の普及に本腰を入れないことを「それは我々日本人が日本語を劣った言語・不完全な言語として嫌っているからだ」としてしまってはツマらない。
また、自動車輸出等の貿易摩擦が問題になってまだ比較的日の浅かった80年代後半にドンピシャリであった(であろう)議論も、現在の視点から見るとさすがに少し古く感じた。著者ほどの人であれば、その後の20年間でまた考え方も少し変わっているであろう。著者の最近の見解も知りたいと思った。
本文230ページ程度。

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