「『セックスしたがる男、愛を求める女』(アラン・ピーズ&バーバラ・ピーズ)」
ベストセラー
『セックスしたがる男、愛を求める女』
アラン ピーズ・バーバラ ピーズ(著)
藤井 留美(訳)
2010年
主婦の友社
☆☆
Allan & Barbara Pease, 2009,
Why Men Want Sex & Women Need Love -- Unravelling the Simple Truth.の翻訳。日本語版のサブタイトルは「脳科学で真実を明らかにする」。
一世を風靡し、その後の日本社会での「男脳・女脳」ブームの先駆けともなった『話を聞かない男、地図が読めない女』(アラン ピーズ・バーバラ ピーズ(著) 藤井留美(訳) 2000年 主婦の友社)の著者夫妻による10年後の続編。
一言で言って、クダラない低俗サイエンス本。翻訳された日本語の文章は歯切れが良くスイスイ読めるので、エンターテイメントだと割り切ってしまえば面白いかもしれないが…。私自身は冒頭の1/4を読んだ時点で飽きてしまった。
内容としては、「男と女は生物学的に異なっている」ということを繰り返し述べただけの本。これは、「男女の間に違いはない」というPolitically Correctな言説が日本社会よりもずっと強い欧米社会ではそれなりにインパクトのある主張なのだろう。ただ、正直、日本社会でこう主張されても「そりゃそうでしょ」という反応が返ってくるだけではないかと思う。
取り上げられているトピックを見ると、男女の脳の違いに焦点を当てるというより、むしろ男女の繁殖戦略の違いに多くの紙数が割かれている。そういう意味で、脳科学というよりも進化心理学・進化生態学寄りの印象。難しいのは、この分野は科学的知見を表層的に解釈しただけのインチキ本をいくらでも書けるということと、研究者の中にもインパクト狙いの怪しげな研究を行っている者がいるということ。もちろんマトモな研究も行われちゃんとした本も出版されているのだが、素人にはそれを見分けることが本当に難しい。本書もサイエンス本の体裁をとってはいるものの、本当にこれを科学の本だと思ってしまっては後で恥をかくと思う。本書と似たテーマを扱っているマトモな本を読みたいなら、『ナンパを科学する』(坂口菊恵(著) 2009年 東京書籍)をオススメする(軟派なタイトルとは裏腹に硬派な本で、本書と同じようにスイスイとは読めないと思うが…)。
むしろ興味深く思うのは、脳科学ブームの次に来るのは進化心理学・進化生態学ブームなのかな、ということ。このテの本の著者は「次に何が流行るか」を読むことにかけては一流だと思うのだ。
「訳者あとがき」によると、読みやすさのために章の順序を入れ替えたり内容の一部を省いているため、原書とは1対1で対応していない、とのこと。
本文235ページ程度。

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