『砂漠のサイーダさん』
常見 藤代(文・写真)
2009年
福音館書店
☆☆☆
小学校3〜5年生辺りを対象とした子供向けのシリーズ「月刊 たくさんのふしぎ」(福音館書店)の2009年5月号(第290号)。エジプトの砂漠で女性1人でラクダを連れ遊牧生活を送るサイーダさんの1日を文と写真で伝えている。
同じ著者による『
女ノマド、一人砂漠に生きる』(2012年 集英社)を読み、本書のことも知った。大人向けの『女ノマド〜』では、砂漠地帯での遊牧生活について本書よりも詳しく書かれているが、サイーダさんの暮らす砂漠の風景を写した写真がほとんどないことをモノ足りなく思っていた。
本書を見ると、まさに「百聞は一見に如かず」。「砂漠」と聞いて、サハラ砂漠や鳥取砂丘のような砂だけの世界を思い浮かべていたが、サイーダさんが遊牧生活を送るエジプトの「東方砂漠」(Eastern Desert、Arabian Desert)は、岩山に囲まれ、大小さまざまの角ばった石ころが見渡す限りに転がっている砂礫の世界。どちらかと言うと、アメリカの西部劇に出てくるような「荒野」のイメージ、あるいは映画『ランボー3/怒りのアフガン』(マクドナルド(監督) 1988年)でシルヴェスタ・スタローンが暴れていたアフガニスタンの風景に近いかも…(例が古くてスイマセン…)。
『女ノマド〜』を読んだ後で本書を読むと、本書ではサイーダさんの1日に焦点を当て、離れて暮らしている家族との関わりや他者との協力関係、夏と冬の生活の違い、等は取り上げられていないことがわかる。
ほぼ全てのページが砂漠のカラー写真で構成されている。とにかく、その圧倒的な自然の大きさ(および、その殺人的とも思える「単調さ」)に打ちのめされる。何と人間の小さいこと。どちらの方向を向いても、自分以外には誰もいない…。サイーダさんは「家」で暮らしたことがない。生まれてこのかたずっと、この砂漠の地の上でじかに生きてきたのか…。
それはやはり途轍もないことのように感じられるし、「こんなところに人が住めるのか」とつい思ってしまう。世界中に様々な暮らし方、生き方が存在していること、人間の適応可能な環境の幅がトンデモなく広いことをあらためて実感した。
ちなみに、「月刊 たくさんのふしぎ」については初めて知ったのだけど、今もこういう子供向けの良いシリーズがあるんだなぁと嬉しく思った。
本文40ページ程度(他に、読者投稿ページの「ふしぎ新聞」4ページ)。

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