『ヘウレーカ』
岩明 均(漫画)
2002年
白泉社
☆☆☆☆
『風子のいる店』『寄生獣』(以上、講談社)『七夕の国』(小学館)の岩明均による、古代の地中海世界を舞台とした歴史漫画。初出は「ヤングアニマル増刊『Arashi』」(2001年Vol. 1〜6 白泉社)。全6話、この単行本1冊で完結している。なるほど、この作品が同じ古代地中海世界を舞台とした『ヒストリエ』(講談社)に繋がっていくのか…、と興味深い。
紀元前216年、第二次ポエニ戦争(ハンニバル戦争)カンナエ(カンネー)の戦いを発端とした物語。舞台は、シチリア島のギリシア植民都市・シラクサ市。シラクサの生んだ歴史上の偉人で「ヘウレーカ!(わかった!)」の叫び声で有名な人と言えば……、そう、泣く子も黙るアルキメデスだ(「古代ギリシア人」とばかり思っていたが、シチリア島の人だったのか…!?)。本作では、スパルタ人の青年ダミッポスを主人公として、地中海西部の覇権を争っていたローマとカルタゴという二大国に翻弄された小国シラクサの悲劇を描いている。
この漫画がいったいどの程度史実に基づいているものなのかわからないが、実際にアルキメデスはその天才性を兵器の開発においても如何なく発揮していたらしい(むしろ、彼が天才数学者として知られるようになったのは、死後数百年経ってからなのだとか)。街を占拠したローマ兵に殺されたとき、彼は自宅で幾何の問題について思案中だった、と伝えられている(『
数学物語』(矢野健太郎(著) 1961年 角川書店)より)。
我ながら迂闊だった。僕自身最も大切にしているものが「ユリーカ体験」だと言うのに…、「ヘウレーカ」も「ユリーカ」もちょっと発音の仕方が違うだけで、同じ言葉じゃないかっ! 第1話の最後でアルキメデスの名前が出てくるまで、そのことに気が付かなかった…。く、悔ぢい…。
本作や『ヒストリエ』を読むとツクヅク思うのだが、古代ギリシアや古代ローマ時代というのは、岩明氏の漫画の特長を活かしやすい設定なのではないかと思う。氏の描く端整な顔立ちの美女は古代ギリシア・ローマ風であるように思うし、彼が得意とする冷酷で残虐な描写もこの時代の戦闘シーンであれば違和感なく物語に組み込める。
ちなみに、『ヒストリエ』で描かれている世界は本作のおよそ百数十年前の地中海東部で、時代背景はまぁ同じと言って良いのではないかと思う。主人公と他の登場人物との関わりの描き方も『ヒストリエ』と通じるものがある。構想段階にあった『ヒストリエ』の習作も兼ねていたのかなぁ、という印象。
もちろん「習作」とは言っても、岩明作品としての完成度は保たれている(と言うか、抜群に面白い)。この作品を長編としてグレードアップし、更に世界観をスケールアップしていくと、『ヒストリエ』になる…、と言ったら、岩明氏は怒るだろうか(笑)。
260ページ程度。

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