『はじめまして数学 リメイク』
吉田 武(著)
大高 郁子(イラスト)
2014年
東海大学出版部
☆☆☆☆☆
2001年に幻冬舎より3冊組の単行本として刊行され(その後、2006年に文庫化され)た、小学生向けの数学読み物『はじめまして数学』シリーズの内容を一部リニューアルし、1冊にまとめた本(元々は雑誌『子供の科学』(誠文堂新光社)に連載されていたものなんだとか)。この著者はつい分厚い本を作っちゃうのよね(笑)。
約560ページ(!)と分厚い本書、3冊組の名残りで、第一部「自然数を追え、無限を掴まえろ」(1章〜25章)、第二部「ベクトルをまわせ、ドミノを倒せ!」(26章〜45章)、第三部「二階建ての数『分数』の世界」(46章〜70章)の3部70章構成となっているが、30章までが「自然数」の世界、31章から「整数」の世界、45章から「有理数」の世界、と数の概念を徐々に広げていきながら、数のもつ性質についてジックリと調べていく。
子供向けの本として本文の全ての漢字に読み仮名が振られているが(どうせなら見出しにも振って欲しかった!)、扱われているトピックは「子供向けの本」とはとても思えない充実振り(等号・等式、1対1対応、不等号・不等式、位取り記数法、n進法、四則計算・逆計算、九九、交換・結合・分配法則、偶数・奇数、無限・「アレフ・ゼロ」・∞(無限大)、三角数・四角数(平方数)、素数・約数・倍数、エラトステネスのふるい、メルセンヌ素数・双子素数、素因数分解・合成数、階乗、順列・組合せ、「レプ・ユニット」、素数定理、完全数・友愛数、巡回数、パスカルの三角形、場合の数、フラクタクル図形、0(ゼロ)、負の数、数直線、絶対値、ベクトル、「マイナスかけるマイナスは何故プラス?」、虚数、理論値・実測値、帰納・演繹、数学的帰納法、助数詞、単位分数、繁分数・連分数、半奇数、真分数・仮分数・帯分数、反数・逆数、分数の割り算、累乗・指数、既約分数・「互いに素」、約分・最大公約数、ユークリッドの互除法・アルゴリズム、小数、不能・不定、電卓の計算誤差、無限循環小数・循環節、通分・最小公倍数、複号、稠密、等々)。しかも、様々なトピックが単に羅列されているワケではなく、自然な話の流れの中で相互に結びつき、見事な数の世界を織りなしているのだ!
2007年頃、図書館で3冊組単行本の中の1冊を偶然見かけ手に取った。たちまち惹き込まれてしまった(ただ、正直、このときの方がインパクトあったような…)。今回、内容がリニューアルされ1冊にまとめられたと知り、小学生の甥と姪に贈ろうと思い購入(クリスマスプレゼントに数学の本を送って寄こす親戚のおじさん(笑))。僕がこの本を本当に凄いと思うのは、同じ著者による大著『
虚数の情緒―中学生からの全方位独学法―』(2000年 東海大学出版会)の「自然数」「整数」「有理数」パートもこの本には及ばない、というところ。つまり、「小学生向け」のこの本の方が優れているのである!
ついでに言えば、こちらも子供向けの数学絵本として評判の『
数の悪魔―算数・数学が楽しくなる12夜―』(エンツェンスベルガー(著) ベルナー(絵) 丘沢(訳) 2000年 晶文社)よりも僕は本書を推している。大高郁子さんの(一見するとヘタウマの)遊び心溢れるイラストがまた良いのだ! 数学に関しては素人であるハズのイラストレーターが本文の内容を理解した上で自由に発想を膨らませて描いた本書のイラストは、数学という一瞬身構えてしまいそうになる世界で肩ひじ張らずに気ままに遊ぶ楽しさを実によく伝えてくれている。数学の一番良いところは「自由」。それなのに一般には「凄く窮屈なもの」と思われているだけに尚更(『数の悪魔』のイラストは、「自由さ」よりも「不思議さ」を前面に押し出しているように思う)。
「大人のための数学再入門」的な本を何冊も読むと、実は扱われている内容はだいたいどれも同じようなものであることに気付く。ところが、その面白さは本によって驚くほど違う。大事なのは、「何を扱っているか」ではなく、「どのように扱っているか」なのだ。そして、確実に言えるのは、本書の著者はその「扱い方」が抜群に巧い、ということだ(不思議なもので、素人向けの数学の本を書くような人でも数の世界の(素人を相手にしたときの)扱い方が下手、という人は確かにいて…)。子供向けに書かれた本書だが、もちろん大人が読んでも構わないと思う。「もう知っている」と思ってゾンザイに扱っていたものをジックリ観察してみると…、意外と知らないことが隠されていたことに気付く(「隠されていた」ワケじゃないのに(笑))。見飽きていたハズの街並みの見たことのなかった風景に思わず息をのむ。こんな面白いことが他にあるだろうか?
さて、もし甥と姪にアドバイスを送るとしたら…、「単に頭で理解しようとするだけでなく、『実感』できるまでジックリ読み込んでみよ。学校では習わない内容も出てくるので(実際のところ、無限、ベクトル、虚数、指数法則、といった中学校や高校数学で初めて習うトピックもかなり早い段階から登場する)、わからないところは『ふーん、よくわからないけど、面白そうな問題が残っているようだな』と今は通り過ぎるだけでよい。その代り、中学生になっても高校生になっても、この小学生向けの本を何度でも読み返せ。そのたびに新しい発見があり、以前よくわからなかった話の面白さが徐々にわかってくるだろうから」なんてところかなぁ…。子供に本気でかける言葉って、結局は自分自身に向かって言っているんだと思うんだけどね(僕は誰かにこう言って欲しいってことか!?)。
と言うワケでベタ褒めなのだが、考えてみると、本書の厚みと重さは小学生の手には(文字通り)負えないかもしれない(厚さ3.5cm程度、重さ0.9kg程度)。他の子供向けの本のように「気楽に手に取って読める」という意味では、1冊にまとめず3冊組のままの方が良かったかもしれない。また、僕の読んだ第1版第1刷には、数字の他、正負の符号や等号、小数点といった、見つけづらいが大事な箇所にいくつか誤植があり残念に思った(小学生には見抜けまい!)。
本文560ページ程度。

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