「『ちゃんとした音楽理論書を読む前に読んでおく本』(侘美秀俊)」
音楽
『ちゃんとした音楽理論書を読む前に読んでおく本』
侘美 秀俊(著)
2014年
リットーミュージック
☆☆☆☆
音楽を「学ばなければならない」人(小学校・幼稚園教諭、保育士、等々)を対象とした「音楽理論を学ぶ前の準備としてまず読む本」。音楽理論の基礎となる概念を一般素人向けに平易に解説している。これから趣味として作曲・バンドアレンジ・DTM等を楽しみたいという人にもいいかもしれない(既に始めている人にとっては「常識中の常識」ばかりなのかもしれないが…)。実際にピアノの音を鳴らしながら読みたい1冊。
全6章構成。「五線譜と音名」「倍音と音程(度)」「音階(長音階と短音階)」「調性(移調・転調・近親調)」「和音(三和音・四和音・テンションコード)」「ダイアトニックコードの機能・ケーデンス(カデンツ)、代理和音」といった内容。各章の各節が先生と生徒による会話形式の導入で始まり、語り口調による解説の文章が続く。妙に素人臭い本だが、非常に取っ付き易くまた解説の文章も軽妙なためスラスラ読み進んでいける。全く知識のない読者でも週末の間に読み終えられそうな分量。
僕自身は音楽の専門教育を受けたことはなく、音楽関係の知識と言えば、小中学校の音楽の授業で習った知識と、中学生になって弾き始めたフォークギターで覚えたコードの仕組み、高校生・大学生時代のアマチュアバンド経験で得た知識程度(作曲やバンドアレンジには手を出せず仕舞い)。そんな僕でも本書の前半までは「ほぼ知ってる話ばかり」という感じだったが、後半になってこれまでに得ていた断片的な知識の裏付け的な話がバンバン出て来るようになると「あぁ! そうだったのか!」と、これが面白い! 僕は「理屈」や「仕組み」がわかって初めて「面白い!」と感じるタイプなので…。
初級卒業〜中級者向けのギター教則本のような本を読んでいても「ダイアトニックスケール」「サブスティチュートコード」というような用語はときどき出てくるし、ありがちでダサいコード進行でも途中のコードをいくつか替えるだけでずっとお洒落な印象に変わることも知っていた。ただ、そういった知識やスキルは長い間の修行(笑)から経験的に学ばなければならないものなのだろうと思っていた。何のことはない、「ちゃんとした音楽理論書を読む前に読んでおく本」に書いてあるような「基本中の基本」の話だったのだ。
僕の妹は音楽系の大学に進学したので「楽典」というような本も見かけたことはあった。ただ、クラシック専門の人とはあまりに「文化」が違っていて話が通じなかった(これは音楽的な「好み」の問題ではなくて、クラシック畑一筋の人に「シーメジャーセブンスコード」と言っても通じない、等。逆に訊かれる始末(笑))。最近だと「ロックギタリストのための音楽理論入門」みたいな本も増えており、これはこれでいい時代になったな、と思う。間を取り持ってくれる存在が必要なのだ。
本書の雰囲気で面白いなと思ったのは、音楽理論中に現われるいくつかの法則性を「暗記」するための語呂合わせが度々登場するところ。何故「暗記」する必要があるかと言えば「試験に出る」からで、本書はやはり自らの音楽活動のために読む本と言うより「試験に受かるために勉強しなければならない人のための本」なのかな、と思う。
ちなみに、『
マンガでわかる! 音楽理論』(侘美(監修) 坂元(漫画) 2016年 リットーミュージック)は、本書の前半3章分の内容を漫画と文章による解説の二本立て構成にしたもので、(本書前半と)内容的にほぼ同一と言ってよいと思う。本書は後半の方が面白いので、後半3章分に相当するマンガ版の続編も是非刊行して欲しいと思う。
本文245ページ程度。

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