「『金哲彦のマラソン練習法がわかる本』(金哲彦)」
スポーツ
『金哲彦のマラソン練習法がわかる本』
金 哲彦(著)
2009年
実業之日本社
☆☆
タイトル通りの本(笑)。フルマラソン大会に参加する市民ランナーを対象に、マラソン練習法について簡単に説明した上で、初級者(フルマラソン完走狙い)・中級者(4時間切り狙い)・上級者(3時間切り狙い)のレベル別に99日間(約13週間)に渡るトレーニングメニュー例を公開している。表紙には「自己記録を更新できる最強トレーニングメニュー集」とも。2015年に「じっぴコンパクト文庫」化されている。
全7章構成。イントロダクション、マラソン練習法の基礎知識、99日間トレーニングメニュー(初級者向け・中級者向け・上級者向け)、フルマラソン直前30日間駆け込みトレーニング、Q&A、といった内容。余白や行間が広く、改ページも多いためスイスイ読み進んでいけるが、その反面少し内容が薄い気も。「マラソン練習法」に特化した内容を期待していたが、焦点がボヤけているような印象で、正直かなりもの足りなかった。「読み物」としての色合いが意外と強く、僕としては、マラソンの魅力について語っている第1章、トレーニングメニュー例の前に想定対象者を物語風に提示する「チャレンジドキュメント」、著者自身が非推奨としている(笑)「30日間駆け込みトレーニング」、などは不要に感じた(ところで、「エピローグ」に「本書は構成の中村聡宏氏の協力がなければできなかった。」とあるのは、実は著者の役割は監修のみで、実際の執筆は中村氏が行った、ということを示唆しているのだろうか?)。
本書冒頭の「プロローグ」に「トレーニングメニューのつくり方と基本となる理論がわかれば、自分なりのアレンジもできるようになる。」とあるのだが…。掲載されているトレーニングメニュー例をアレンジしたり、自分でメニューを一からつくるためには、ランナーとしての自分にはどのような力が足りず、それをどのようなトレーニングの組合せによって強化することができるのか、どれくらいの速さでどれくらいの距離(時間)を走ったときにトレーニング効果が最大となるのか、そのトレーニング効果があらわれるのにどれくらいの日数がかかり、またその効果が消えてしまうのにどれくらいかかるのか、そういったことを理解していなければならない。ところが…、僕にはこのような「トレーニングメニューのつくり方と基本となる理論」が本書には書かれていないように思うのだ。何をすればマラソンの練習になり、何をしてもマラソンの練習にはならないのか(また、それは何故か)、といった「マラソンのためのトレーニングの原理・原則」「基本的な枠組み」から説明して欲しかった。
僕自身のことを言えば、ジョギングを始めて12年、市民マラソン大会に参加し始めて10年になるが、完全に自己流で走ってきたバカリか、これまで意識的に「トレーニング」したこともなかった(その日の調子に合わせて、好きなように走っているだけ)。月間走行距離としてはソコソコ走っているのにタイム的にそれほど速くないのは、素質がないか、年齢の故か、あるいは「本格的なキツい練習」をしたことがないせいなのだろうと思っていたが、本書を読むとどうも違うようだ。
例えば、レベル的に僕が該当すると思われる「中級者向けトレーニングメニュー」の中身はそれほどキツいものではなく、「え? これだけでいいの?」と拍子抜けする程度のもの。僕の「練習」は、走る距離や時間が長過ぎたり、ペースが速過ぎたりムラがあったり、いつも同じコースを同じように走るだけだったり、休養のタイミングが悪かったり…、要するに「練習になっていない」ことをただ闇雲に行っているだけなのかもしれない。これじゃ月間走行距離をいくら伸ばしても、いつまで経っても楽に速く走れるようにならないのは当然だ。意味がないことをやっても意味がないのだ(僕はギターの「練習」もそうだな〜。ただ好きなように弾いているだけなので「練習」になっておらず、何十年弾いていても少しも上達しない)。
また、「具体的な目標」を定める重要性を自分はわかっていなかったことにも気付いた。トレーニングは目的ではなく手段。「トレーニングメニュー」は、「目標」と「現状」の間の「ギャップ」を埋めるためには何をすべきか?という観点から組んでいくものなので、現状を客観的に把握した上でトレーニングによって実現可能な目標を定めなければ、そもそも組めないものなのだ。僕にも「スピードをつけたい」「後半の落ち込みを回避したい」「もう少し楽に走りたい」というような「願望」はあったが、それでは漠然とし過ぎていて、せいぜい「普段からもう少し速いペースで走ってみよう」「ジョギング頻度を増やしてみよう」「フォームを改善してみよう」というような漠然とした対策が思い浮ぶだけだった。しかしこれでは「具体的なトレーニングメニュー」に落とし込めない。例えば、フルマラソンを3時間45分で走りたいのか、3時間半で走りたいのかによって、やるべきことは変わってくるのだ。
僕はもともと「目標」を掲げるタイプではない(学生時代の勉強でも部活でも、社会人になってからの仕事でも趣味でも)。僕なりの「向上心」はあるツモリだが、中級者にはなれても上級者にはなれないことが多い。それはこれまで何に関しても「具体的な目標」を意識したことがなかったせいなのかなぁ…。そうなんだろうなぁ…。
まぁ、僕としてはあまり深く考えずに自分の気持ちの良いように「ただ走る」のが楽しいのだが…(それだけでもフルマラソンを4時間切って走れるし、100kmマラソンも完走できる)。それだけでいいのならもちろんそれでいいのだが、「自己ベストを更新したい」というような欲が出てくると…、ただ走るだけでは練習になっていない、練習になっていないのだから、ただ走っているだけでは自己ベストを更新できない、ということなのだろう。
トレーニングをする準備期間も含めて「レース」だと考えれば、マラソンというスポーツをより深く理解でき、ますます楽しむことができるようになる。(p.50)
なるほどなぁ…。
本文225ページ程度。

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