2010/1/23  19:28

Wicked 〜Defying Gravity深読み(その4)  ミュージカル

16日、19日、21日のつづき。(今回で終わりです。)

「Defying Gravity(重力に逆らって)」の最後の、エルファバが文字通り重力に逆らい、空に舞い上がって歌うフレーズ。

Elphaba:
So if you care to find me
Look to the western sky
As someone told me lately -
Ev'ryone deserves the chance to fly
And if I'm flying solo
At least I'm flying free
To those who'd ground me
Take a message back from me -

エルファバ:
私を探したいのなら
西の空をごらん!
最近、ある人が私に言ったように、
誰もが飛ぶチャンスを与えられるべきなのよ!
ひとりぼっちで飛んでいるにしても
少なくとも、私は自由に飛んでいる!
私を地面に縛りつけようとする人たちに、
私のメッセージを伝えて

Tell them how I
Am defying gravity!
I'm flying high
Defying gravity!
And soon I'll match them in renown
And nobody in all of Oz
No wizard that there is or was
Is ever gonna bring me down!

私がどうやって重力に逆らったか、彼らに伝えて!
私は高く、高く飛んでいる
重力に逆らっているのよ!
今に、私は彼らと同じぐらい有名になる
オズの国の誰も、
どんな魔法使い(wizard)でも、過去の魔法使いたちでさえ
誰も私を引きずり降ろせない!


Glinda:
I hope you're happy!

グリンダ:
成功を祈ってる!

Citizens of Oz:
Look at her, shes wicked!
Get her!

オズの市民たち(コーラス):
見ろ、彼女は邪悪(wicked)だ
捕まえろ!

Elphaba:
...bring me down!

エルファバ:
...引きずり降ろせない!

Citizens of Oz:
No one mourns the wicked
So we've got to bring her...

オズの市民たち:
悪い魔女を悼む者はいない
あの女は引きずり降ろさなければ!


「ひとりぼっちで飛んでいるにしても、少なくとも、私は自由に飛んでいる(And if I'm flying solo, at least I'm flying free)」

ああ、この歌詞、すごい好きだ。Tシャツに印刷して着て歩きたい(笑)。

これも、最初に聴いたときはフィエロのことを言っているのかと思ったのですが...まあ、ここは間違いなく、「(グリンダと一緒じゃなく)ひとりで飛んでいる」という意味ですね。

「オズの国の誰も、どんな魔法使いでも、過去の魔法使いたちでさえ、誰も私を引きずり降ろせない(And nobody in all of Oz, no wizard that there is or was, is ever gonna bring me down! )」

ここの「wizard」ですが、歌の冒頭部分の「魔法使い」は「THE wizard」、つまりオズの国の最高権力者である「オズの魔法使い」を指しますが、ここの「魔法使い」は定冠詞なし、つまり特定されない、全ての魔法使いを指しています。

そして、このwizardという言葉は、ハリー・ポッターを英語で読んでいる人ならご存知の通り、男の魔法使いを指す言葉だということにも注意。女性の魔法使い(魔女)はwitchと呼ばれます。

だから、ここは「どんな男も私を引きずり降ろせない!」というニュアンスもあるのです。

そして...ここは重要なんですが...英語のニュアンスとして、wizard(=男の魔法使い)は、ガンダルフやダンブルドア、またはこの「オズの魔法使い」のような、「力強い賢者」という良いイメージで使われるのに対し、witch(=魔女)は「邪悪」「意地悪」という悪いイメージで使われることが多いのです。

中世ヨーロッパの「魔女狩り」は、女性だけが犠牲になったというイメージが強いのですが...まあ実際、「魔女」とされて殺された被害者は女性が圧倒的に多かったとは思いますが、実は処刑された人の中には男性も相当数いたそうです。で、そういう場合は、男性も「witch」と呼ばれたのです。「wizard」ではなく。

「邪悪」とされ糾弾される男性は女性と同じく「witch」と呼ばれたのですが、だったら「良い」魔法を使う女性が「wizard」と呼ばれたかというと...それはなかったようですね。

ちなみに、「ハリー・ポッター」に登場する「ホグワーツ魔法魔術学校」は、英語では「Hogwarts School of Witchcraft and Wizardry」と呼ばれています。「witchcraft」(witchの技術)と「wizardry」(wizardの術)は別のものなんですね。「ハリー・ポッター」の世界では同列ですが、元々は、witchcraftは邪悪、wizardryは良い魔術、という意味合いがあります。

かなり大雑把な言い方をすると...「魔法のような」ことができる人、つまり、人には真似できないようなすごい技を持っていたり、今までになかったような画期的な技術を開発した人がいたとして、それが男性なら「wizardry」として賞賛され、それが女性(または、人種・国籍・宗教など、何らかの理由でその社会に認められない男性)なら「witchcraft」、邪悪なものとして糾弾されたわけです。

魔女の登場する話が、たいがいフェミニズム面での含みを持っているのには、ちゃんと理由があるんです。

この「Defying Gravity」の後、エルファバは「Wicked Witch of West(西の悪い魔女)」になります。「西」なのは、Wで頭韻を踏んでいるだけだと思いますが、wickedはwitchとよく結びつけられる形容詞です。

このミュージカルの題名となっている「Wicked」ですが...これはもともとは「邪悪な」「意地悪な」という意味で、ここでオズの市民たちが「彼女はwickedだ!捕まえろ!」と叫んでいるのは、もちろんその意味なのですが...

でも、現在では「wicked」には「(悪)賢い」「巧みで抜け目ない」「カッコいい」という良いニュアンスもあります。たとえば、人がスポーツですごい技をキメたとき「Wicked!」と言ったりしますし、何かを非常に巧みにやってのけたときに「Wicked!」と言うのは「上手いね〜」とか「あったまいい〜」とかいう意味です。

ここで皮肉なのは、本当はエルファバにはwickedなところはまったくないのですよね。良い意味でも悪い意味でも。不器用で純粋で猪突猛進で、彼女ほどwickedとほど遠い人はいない。グリンダの方がよっぽどwickedです。ダンスパーティのシーンで、自分に恋する少年にフィエロとのデートを邪魔させないために、車椅子のネッサローズ(エルファバの妹)を「可哀相な彼女を誘ってあげる人がいたら、私は尊敬しちゃうんだけどな〜」とか言って誘わせるところなんて、wickedそのもの。

でも、エルファバのようなwickednessのカケラもない人が権力者になったら...これが、最悪の暴君になる可能性が高いんだよね。「wicked」は必要なのです。

結局エルファバは、最後に成功することはなく(「オズの魔法使い」を読んだ人なら知っていることだから、ネタバレにはならないと思いますが)、あとはグリンダに託されることになります。

だからと言って、これは「エルファバの選んだ道は間違っていた、結局はグリンダのやり方が正しかった」という話ではないと思う。

エルファバは、先駆者なのです。最初に例を挙げたマルコムXのような。チェ・ゲバラのような。あるいは(かなり飛躍ですが)イエス・キリストのような。先駆者というのは、社会にショックを与え、揺り動かし、多大な影響をあたえつつも、自らは権力を握ることなく、具体的には何も変えることなく、悲劇的な最後を遂げることになっている。

道を示すのは先駆者の役目でも、その後その意志を継いで、長期的具体的に世の中を変えてゆくのは...エルファバのような天才ではなくても、社会に適応するのに必要なwickednessを持っている「グリンダ」たちの役目なのです。

「Now it's up to you, for both of us.(私たち二人の仕事は、これからは、あなたにかかっているのよ。)」(第二幕の歌「For Good」)

「グリンダ」たちの仕事は困難で、責任重大なのです。

最初と最後のシーンで群集が歌う「wickedな者の死を悼むものはいない、wickedな者は一人で死ぬ」というのは、もしかしたらエルファバではなく、グリンダのことを言っているのかもしれない。

おわり。




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