2010/2/7  20:53

オーブリー&マチュリン「21」(その24)  パトリック・オブライアン

先日、ジェーン・オースティンの「説得」を読みました。ジェーン・オースティンは「高慢と偏見」「分別と多感」「エマ」しか読んでいなくて、以前オブライアンの2巻を「ジェーン・オースティンみたい」と書いたのもこの3冊に基づいて言っていたのですけど、海軍士官が出てくる「説得」こそ、2巻を書く時オブライアンの頭にあった小説かもしれませんね。


ソフィーは「高慢と偏見」の長女っぽいと思っていたのですが、「説得」のヒロインのアンっぽくもある。つまり、ソフィーが母親の「説得」に負けてジャックとの結婚をあきらめてしまっていたら、アンになるのですね。ソフィーがアンより頑固者で、よかったねジャック。(スティーブンの説得もありましたが。)

オースティンを読んでいて感じるのは、とにかく当時の上流階級の人々は、働かないってことですね。よくまあ、こんなに働かないでいられるなあ、って感じ。女は外で仕事しないのはもちろん、家事だってしないし、男もフルタイムの仕事はない。とにかく毎日毎日社交したり遊んだり、いかに有利なコネを作るか策をめぐらしたりしている。お金は生まれつきあるか、あるいは「有利な結婚」によって入ってくるだけで、才覚によって大きく稼ぐ、という余地はあまりない。

そういう、働かない人々のところにお金が集まる社会の矛盾というのは、ともかくとして...感じたのは、本人たちも退屈じゃないのかそんな生活?ということでした。あと、そういう、仕事に才能を発揮しようと努力してない男って、いくら優雅で非の打ちどころのないマナーをしていても、男として魅力がないんじゃなかろうか?ということ。(<今は、これもちょっと古い感覚かもしれませんが。)

何が言いたいのかというと...そんな社会の中で、自分の才覚と勇気でもって、拿捕賞金によって相当な富を築くことのできる海軍士官というのは、かなり特別な存在だったのではないかということです。ジャックたちが魅力的に見えたとしても無理はないよなあ。

前置きが長くなりましたが、「21」の続き。

***

「戻ってきて早々、こういうことに巻き込んですまないね、ジェイコブ。ところで、アルゼンチンに関するサー・ジョセフへの報告書を書く前に、単純なヘルニアの手術をする時間はあるかな?」「いいとも。健康な患者のヘルニアの手術なら簡単だ。この決闘のことも、たいした問題じゃないだろう。明日の夜明けに、地元の外科医と担架を用意しておけばいい。大した怪我にはならないだろう?」「ああ、最悪でも肩に貫通刺傷というところだ。」

介添人になったドクター・ジェイコブもスティーブンも落ち着き払っていますが、これには理由があって...それは、決闘のルールとして、原因となる侮辱を受けた側(この場合は殴られたスティーブン)が、武器を決める権利があるということです。ミラーは射撃の名手ですが、剣の方は素人。なので、スティーブンは当然、剣を指定しました。剣なら、スティーブンの腕なら、勝つことはもちろん、相手の怪我の程度もコントロールできますからね。ピストルとなると、勝っても負けても非常に深刻な結果になる可能性が高いのですが...

あれ、でも3巻でキャニングと決闘した時も、スティーブンは侮辱を受けた(殴られた)側ではなかったっけ。あれはピストルの決闘でしたよね。スティーブンがピストルを指定したってことか。

スティーブンって、この(「21」の)時点に比べて、3巻の頃には血の気が多かったのかなあ...

ところが、ミラーは剣の選択に難色を示し...というか駄々をこねて、ピストルじゃないといやだと言い張りました。

それを聞いたレイトン提督は、甥のミラーを贔屓にしているとはいえ、貴族らしくルールとか名誉とかには非常にうるさい人なので、甥の態度に激怒し、剣での決闘をすぐに承諾しなければ、伯父と甥の縁を切り、今後は一切援助しない、と断言します。それを聞いて、ミラーも渋々、剣での決闘を承諾するのでした。

決闘は、「私は射撃は名手だが剣については何も知らない、不公平だ」と、まだぶつぶつ言っているミラーに、介添人たちが「これがルールだから、ひざまずいて許しを請うか戦うかどちらかだ」とコンコンと言い聞かせ、剣を持たせて背中を押してやるという、ちょっと間抜けなものになりました。「伯父上は、戦わなければ二度と口をきかないとおっしゃってますよ。」

3、4度剣を合わせただけで、ミラーの剣は手から離れて飛び、スティーブンと彼の間に着地しました。スティーブンはその剣を踏んで、自分の剣をミラーにつきつけ、「ミラー、あなたの発言を全て撤回しますか?」

「すべて撤回します。」

「よろしい。紳士方、立会って下さって心から感謝いたします。では失礼。」

最後まで、カッコいいですね、スティーブン。

考えてみれば、第一巻のファーストシーンは、ジャックとスティーブンが初めて出会って、ちょっとしたことで喧嘩になりかけるシーンでしたね。あのときジャックとスティーブンは、お互いの宿泊場所を言って別れていましたよね。あれは「決闘を申し込むなら、ここに連絡しろ」という意味です。

つまり...このシリーズは図らずも、決闘未遂で始まって、決闘で終わることになったのでした。

名残惜しいですが、次回で最終回。



2010/2/14  19:59

投稿者:Kumiko

しるふぃーどさん、こんにちは〜

オースティンの兄弟は提督だったのですね!「マンスフィールド・パーク」も読んでみようと思います。できれば書簡集も。

>ウェントワース艦長の姉婿がいかにもオブライアンの作品に出てくる海軍軍人

ヒロインのアンの屋敷を借りた彼(クロフト提督)が、ナルシストのアンの父の部屋にあまりにたくさん鏡があるのに耐えられなくて、髭そり用の小さい鏡以外は全部運び出させてしまう、というエピソードに笑いました。

ジャックのところに「ウチの息子を士官候補生に」という手紙が来たり、ジャックがプリングスのために第一海軍卿に手紙を書いたり、プリングスの無学な奥さんがなかなか艦のもらえない夫のために海軍省にたどたどしい手紙を書いたり、というエピソードもありましたね。そういうコネって重要だったのでしょうね。(特に平時になると)

2010/2/13  23:20

投稿者:しるふぃーど

オースティンの「説得」(あるいは「説き伏せられて」)必読ですね〜。「高慢と偏見」と並んでお気に入りです。これに出てくるウェントワース艦長(某岩波の翻訳は“大佐”となっていていつも“艦長”に脳内翻訳しています。海洋モノならあり得ない訳だ)の姉婿がいかにもオブライアンの作品に出てくる海軍軍人ぽいんですよね。
オースティンは兄弟が二人も海軍で提督にまでなっているので、海軍に愛着と理解があったようです。ほかにも主人公の兄が海軍士官という話も書いています(マンスフィールド・パーク)
「ジェイン・オースティンの手紙」という書簡集が岩波から出ているんです。オースティンの手紙だけの編集で往復でないので、ちょっと読みづらいのですが、当時の中流家庭の日常を知るには格好の書ですよ。兄弟が多いのですが、しょっちゅう互いに泊まり合ったり旅したり、手紙をやり取りしてます。
海軍ものファン目線で読み解くと、兄弟の海軍さんたちにはなにやらコネがあったらしく、ジャックがやってたような提督への嘆願書を出した話が手紙にのってたり(今の艦はうちの息子にふさわしくない云々)、兄の艦長さんはしょっちゅう艦を変えてたようで、オースティンは兄弟が今どの船に乗っているか常にチェックしてたみたいです。結構陸にいるし。ずっと海で戦う武闘派はやっぱり多くないんですね。
書簡集は1932年初版刊行のようですので、オブライアンも読んで当時の雰囲気を知る参考にしたかもしれないですね。


※投稿されたコメントは管理人の承認後反映されます。

コメントを書く


名前
メールアドレス
コメント本文(1000文字まで)
URL




teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ