2008/2/3  21:29

アメリカン・ギャングスター ☆☆☆☆1/2  ラッセル・クロウ&ポール・ベタニー

新聞で読んだこの映画の批評に、「娯楽映画としてはよく出来ているものの、『ゴッドファーザー』のような重厚な運命劇を期待していると肩透かし」みたいなことが書いてあって、私は「もう、また意味のないこと書いてるなあ」と反発を感じたのですが…考えてみればそれ、ひとつ当っていますね。つまりこれは「運命劇」じゃない、ということ。

フランク(デンゼル演じる麻薬王)も、リッチー(ラッセル演じる刑事)も、運命に流されているわけじゃない。生まれ育った環境も血のしがらみも関係なく、自分の道を、冷静な頭でよく考えて選んだ道を貫いているのだ。そして、ぐちゃぐちゃ言い訳はしない。(まわりの言い訳も聞かない。)私にはそこが、爽快に思えました。

以下ネタバレ気味

フランクは貧しい家庭の育ちで、彼がギャングのボスの運転手になったのは、もちろんその環境と無関係ではないだろうけど、ボスが死んだ時点で足を洗うこともできた。そして、あれだけのビジネスセンスがあれば、カタギの道でも成功できたはず。(もちろん人種差別には直面しただろうけど、時は50年代ならぬ70年代、逆手にとればかえって有利な面もあったはず。だいいち、この映画を見る限り、裏社会だって人種差別的だしね。)

ただ、まともな仕事では、これほど短期間でこれほど巨額な金を稼ぐのは不可能だったことはたしかで…少なくとも、2年もしないうちに、母親にあんな宮殿みたいな家を買ってあげることはできなかっただろう。たぶん、彼はそのあたり、リスクと費用対効果を冷静に計算してこっちの道を選んでいる。だから同情の余地はないのだけど、だからこそ逆に、思わず応援したくなったりもする(笑)。頭の良い人が巧みで大胆な戦略を使ってみるみる成功するところって、見ていて面白いのよね。たとえモラルに反することでも。

一方のリッチーは、「正義を貫く刑事」と宣伝文句にはある。それは確かにその通りなのだけど、その言葉のイメージと違うのは、「正義」なのにちっとも青臭くないことなのよね。それに「熱血」でもない。

思い出したのは、「クラッシュ」という映画で、マット・ディロンが演じた悪徳警官。後輩の新米警官に人種差別的な態度をなじられて、「お前も警察に5〜6年もいれば分かるようになるさ」と答えていましたが…なんか、リッチーも若い頃にはそんな風に言われたんじゃないかなあ、とか想像してしまいました。

そして、リッチーは5〜6年よりも長く警察で勤めて…現実は分かった、でも納得はしなかった。どうすればそれを変えられるか、ずっと考えていた。夜学で司法試験の勉強をしているのだって、せっかく悪党を捕まえても弁護士がうまくやって釈放されてしまうので、本当に悪党を刑務所に送るのなら法律の勉強もしないとだめだ、と考えてのことなんでしょう。(<このへんは、原作のルポルタージュを読まないと分からないけど。)

NYの悪徳警官に「フランクを逮捕するつもりか?正気とは思えない」と言われて、「知らないのか?ニュージャージーではみんな狂ってるんだ。こっちでは、警官は悪党を逮捕するんだ。」…こういう台詞を、熱くではなく、何気なくさらっと言えるところが、カッコいいんだなあ。ホント、惚れ惚れしました。

私はこういうキャラが大好きなんですよ。ラッセルが演じているからじゃなくて。(信じてもらえないかもしれないけどこれは本当に。笑)こういう、しぶとい善良さというか。冷静で頭の良い「いい人」ぶりというか。やや草臥れ気味の正義というか。

いろんな意味で対照的なフランクとリッチーですが、ひとつ共通点があって、それは「秩序の破壊者」だということ。全然逆のことをやっているはずの二人なのに、フランクはイタリアンマフィアから、リッチーは仲間の警察官から、「お前のようなやり方をしていると、秩序が壊れる、この世界は無茶苦茶になる」と、同じように批判されているところが面白かった。

無茶苦茶にしてしまえばいいのだ、どうせロクでもない秩序なのだから。

まったくの余談:先日、TVの食品偽装問題の特集番組で、偽装をしている会社内部からの告発が相次いでいる現状をさして、あるタレントが「日本が告発社会になってしまったら、日本は滅びる」とのたまわっているのを聞いて、呆れてしまったのですが…なんとなく、それを思い出しました。

フランクが逮捕されて二人が顔を合わせてから、まったく正反対のはずのフランクとリッチーが、皮肉にもこの点で互いの中に「Kindred Spirit(相通じる魂)」を見出してしまうのが、実に面白かったのです。

思えば、「ゴッドファーザー」のコルレオーネ家は、裏社会なりの「秩序」を守る側であったわけですね。

そりゃ、「ゴッドファーザー」は、映画史に二つとないモノスゴイ傑作ですけどね、私だって、あえてどっちか選べと問われれば「ゴッドファーザー」を取りますけどね。でも、「ゴッドファーザー」と違うから、という理由でこの映画をけなしたりする人は、わかってないなー、と思うわけです。




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