稽古後、僕らは顔を突き合わせていた。
鎌倉。進藤。川村。
今回、まだ決まりかどうかは分からないが『炎の人』のパンフレットの役者コメントが、
『一期下の人間が一期上の人間の人物紹介を書く』
という案が出てる。
「【川村君】大丈夫っすよ。俺、鎌倉さんと進藤さんの紹介文書きますから!ていうかもう出来てます。」
「【僕】ん…川村君、その時点で間違ってるぞ。君が僕ら二人分を書くんじゃなくて、川村君が進藤君の人物紹介を、進藤君が僕の人物紹介を書いて、僕は一期上の本郷さんの人物紹介を書く訳だから、君は僕ら二人を書く事は出来ない。」
「【川村君】でも俺、もう出来ちゃいましたもん!」
「【進藤君】え?じゃあ、それはちなみに……?」
「【川村君】鎌倉さんの人物紹介は
『戦場にては仏に出会えば仏を斬り、親に出会えば親を斬る……』」
「【僕】出陣前の上杉謙信の演説だね。またわかりにくいところからパクッたなぁ。…」
「【進藤君】で、俺の人物紹介は?」
「【川村君】進藤さんは…
『恋も喧嘩も命がけ!』」
「【進藤君】ちょっと待て。」
「【僕】漫画『華の慶次』の表紙文句だね。さらにわかりにくい所からパクッたなぁ。」
「【川村君】ダメですか…?」
「【僕】いやまだ俺はいいよ。その文を読んでお客さんは
『ああ、なんだかよくわかんないけど、とにかく戦場となる舞台の上では非情なくらいストイックな人なのね…』なんて理解してくれるかもしれないけど……問題は進藤君だよ。」
「【進藤君】『恋も喧嘩も命がけ』」
「【僕】これですよ。何?この人物紹介?」
「【川村君】アッパレじゃないですか!」
「【僕】いや、確かに『男』としてはアッパレな評価だよ。『恋も喧嘩も命がけ』。男たるものそうありたいもんです。しかしですねぇ…それをお客さんが見て進藤君の人柄をどう判断してよいものやら…」
「【川村君】ダメですかぁ……じゃあ、能力データグラフってのはどうですか?」
「【進藤君】え?何それ?」
「【川村君】よくボクシングとかK-1とか、総合格闘技で選手のデータが五段階評価の五角形のグラフで出るじゃないですか!」
「【僕】はいはい。打撃:5、寝技:3、スタミナ:4、とかね…評価の数値が高い程、きれいな五角形になるやつだ。」
「【川村君】そうです。それですよ!」
「【進藤】え…じゃあ…何…他の役者達がそれぞれ自分の一期上の役者を紹介してる時にぃ…
《〇〇先輩は無名塾内においてはまさに△△的存在の先輩です。仲代さんからも…》
とかなんとか文章で紹介してる時にぃ…」
「【僕】鎌倉、進藤、川村だけぇ…」
「【川村君】鎌倉太郎
演技力:3
表現力:2
滑舌:4
読解力:2
ボケ:5
進藤健太郎
演技力:4
表現力:4
滑舌:3
読解力:3
ツッコミ:5
これ…いいんじゃないですか!おもしれー!データグラフいいなぁ!」
「【僕】じゃあ、川村さんも…
川村進
演技力:2
表現力:4
滑舌:2………」
「【川村君】面白いじゃないですか!おもしれー!!データグラフいい!…………で…何で俺、演技力の採点低いんですか?」

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