「カマちゃん、よう覚えちゅうねぇ。」
この夜、僕がかっちゃんの口から幾度となく引きずりだした台詞である。
僕はどうやら確実に、かっちゃんの記憶のロックを解除していったようだ。解除する度に、ある時は驚いたように、またある時は大笑いしながら様々なバリエーションの
「よう覚えちゅうねぇ。(よく覚えてるねぇ)」
をかっちゃんは繰り出す。もちろん覚えようとして覚えてる訳ではない。事細かに覚えてるという事はそれだけ彼から受けた瞬間瞬間が僕にとって衝撃的であり笑劇的であったのである。「そういえば【なかけん】今、何しゆうかなぁ?」
「おー!なかけん!なかけんねぇ!どうしゆうかなぁ!?」
なかけん〜授業中はいつもエロ落書きを描き、授業中にもかかわらず下半身を出したり、修学旅行中も後ろに先生が立っているのも気付かず一人、ストリップをやっていた男。しかしその頭脳は明晰でテストはいつも100点!後に一浪してこの国のもっとも難解な学問の聖地、東京大学に入学するもその後、連絡はとれていない…。
僕らが少年ジャンプに夢中の頃、なかけんの愛読書はギネスブック。なかけんを通して初めて見たギネスブックは僕らの興味をくぎづけにした。そこには様々な人間の限界が記してあり、どんなくだらない記録でも世界記録ともなるとどれも僕らをア然とさせた。
「なかけんかぁ…会いたいねぇ。」
かっちゃんがつぶやく。
僕らはいつも三人でトリオ。
沢山友達が多く活動の活発だった、かっちゃん。
ど変態(?)だが高度な知能と広大な知識を有した、なかけん。
なんのとりえもない僕。
今から思えばこんな二人についていくので精一杯だった。
「かっちゃんは今、家族は?」
「あー!嫁はんと女の子が二人。」
「へぇ。お子さんはいくつ?」
「上が中三、下が小四。」
「えぇ!?中三っ!?」
「うん。今年高校受験よ。」
「えぇっ!?」
小学校中学校と一緒に遊んでた友達にあの頃の自分達と同じくらいの娘さんがいるなんて…。
大阪公演無事終了。次の北海道公演まで一週間弱空く為、僕は個人的に高知に一時帰郷。
高知は『アンパンマン』の作者、やなせたかしさんの出身地でもある。
《みんな!こんにちは!僕アンパンマン!今日はアンパンマン列車に乗ってくれて有難う!間もなく終点、高知駅だよ!みんな気をつけていってらっしゃい!》
車内放送にて高知に間もなく列車が着く事をアンパンマンが告げている。
【南風四万十(なんぷうしまんと)四号】という列車名を無視して【アンパンマン列車】と名乗る暴挙に戸惑いながら深夜の高知。雨が降っている。


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