そうだったのか。そうだったのだ。この山に点在する廃屋が示していたのは『住みにくさ』ではない。『住む危険さ』であった。謎は解けた。それに気付いた僕の足はもはや駆け足になっている。
(しかし、待てよ…)
確かに崩壊危険区域ではあるが、なにも別に今まさに崩れようとしている訳ではない。あくまで何かの災害があった場合は危ないですよ、という地域である、という事なのであって…。
それに気付いた僕の足は平常を取り戻す。
ふと目をやると四匹の猫が慌てる僕をよそにのんびり塀の上でひなたぼっこしている。
(フ…人間には危険でも猫には天国か…)
四匹は仲良く太陽をいただいている。いや、正確に言えば僕を加えた人間一人と四匹は眼下に広がる尾道の港の景観をおかずに朝の太陽をいただく。
可愛いね!猫君達。ちょいと写メ撮らせてよ。
カメラを向けると猫はプイ。さっきまでよそ者の僕をいぶかしげに見ていたのに意地悪な君達だねぇ。
《チタチタチタ…》
おーい。こっち向いて。こっち。
《チタチタチタ…》
おーい。ニャーオ(猫真似声)ニャーオ…
《チタチタチ…》
(チタチタ…?)
僕は背後にかすかな、チタチタという音を聞く。猫君達の視線に気付く。どうやら彼らはプイと顔をそむけたのではなく、その音の主を見ているようである。
嫌な直感。猫君達の視線を追いながらゆっくり僕は振り返る。
……………………。
ハングリーさを漂わせた一匹の野犬が退路を絶つように僕を見ている………。
………………ゴクッ……。
狭い坂路地よりこののどごしをみんなに送る……。


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